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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2017年10月24日

第263回首都圏にあるのに、近畿圏にはない、「分譲マンション12月の秘密」

 皆さんは、「分譲マンション12月の秘密」を、ご存知だろうか?

 まず、不動産経済研究所が毎年公表している「首都圏のマンション市場動向」から、「月間発売戸数の推移(首都圏・近畿圏)」と題する1枚の図表を引用する。

 この図表には、2つの傾向が見てとれる。

 (1)首都圏(赤色で塗りつぶした棒グラフ)では、2014年12月の月間発売戸数が9389戸、2015年12月が6189戸、2016年12月が7007戸というように、12月の発売戸数が他の月に比べてダントツに多い傾向がある。

 これを首都圏における「分譲マンション12月の秘密」と呼ぶ。

 (2)しかしながら、近畿圏(赤線で縁取りした白色の棒グラフ)では、2014年12月、2015年12月、2016年12月ともに、発売戸数は他の月と比べて大きな差がない。

 すなわち、近畿圏には「分譲マンション12月の秘密」が存在しないのである。

 首都圏における「分譲マンション12月の秘密」を考えるときには、「暦年」および「会計年度」という、2種類のカレンダーに注意しなければならない。

 (1)暦年──1月1日から12月31日までを、1年間とする。

 

 (2)会計年度(予算年度、営業年度)──4月1日から翌年3月31日までを、1年間とする。

 この2種類のカレンダーは、マンション発売戸数に、どのように影響するのだろうか。まず、マンションを購入するユーザーの気持ちを考えると、「暦年」カレンダーがポイントになる。

 【年末を迎えるユーザーの気持ち──その1「暦年カレンダー」】

 年末(12月)を迎えて1年を振り返っていると、「来年は、何とかマイホームを購入したい」、「とりあえず、マンションのモデルルームを訪ねてみよう」などという気持ちになりやすい。

 【正月を迎えるユーザーの気持ち──その2「暦年カレンダー」】

 正月(1月)を迎えてゆったりした時間を過ごしていると、「この機会に、住宅についてきちんと考えなければならない」、「とりあえず、マンションのモデルルームを訪ねてみよう」などという気持ちになりやすい。

 ただし、モデルルームで販売スタッフの話を聞いているうちに、「仮にマンションを12月あるいは1月に購入したとしても、実際に入居できる時期は建物が完成した以降になる」という事情が分かってくる。そのため、1度モデルルームを訪ねたユーザーに関しては、「暦年」カレンダーにこだわる気持ちは消えていく。

 その一方、マンションを販売するデベロッパーの側には、「暦年」および「会計年度」という2種類のカレンダーを、ともに重視する傾向がある。

 【マンションデベロッパーの気持ち──その1「暦年カレンダー」】

 首都圏で活動するマンションデベロッパー各社は、「年末、あるいは正月休みの期間に、マンションのモデルルームを訪ねてみたい」と考えるユーザーの気持ちを重視。12月になるとマンションの発売戸数を十分に確保し、かつモデルルームの受け入れ体制もきちんと整備して、用意周到な状態で年末商戦あるいは正月商戦を迎えようとする。

 

 【マンションデベロッパーの気持ち──その2「営業年度カレンダー」】

 それに加えて、マンションデベロッパー各社の販売スタッフには、「3月末の決算期までに売り上げ伸ばし、いい成績を収めなければならない」という事情もある。そのためには、遅くても前年の12月までには営業体制を整えておく必要がある。

 このように、首都圏における「分譲マンション12月の秘密」の背景には、「暦年」および「営業年度」という2種類のカレンダーが存在するのである。

 次に、近畿圏に「分譲マンション12月の秘密」が存在しない事実、すなわち12月の発売戸数が他の月と比べて余り差がない理由、について考えてみたい。筆者が取材で得た感触によれば、大きく2つの説に分かれるようだ。

 1番目は、「近畿圏のマンション市場は、首都圏の約半分という規模であるための結果」という説。規模が小さいと、販売会社の販売スタッフやモデルルームの接客スタッフの動員数が限られるゆえに、12月になったからといっても、発売戸数を一気に増やすことができないと考える。

 2番目は、「近畿圏のユーザーは、首都圏のユーザーに比べて、物事をよく理解しているための結果」という説。すなわちユーザーが、12月あるいは1月に発売されたマンションが、3月までに完成するとは限らないことを知っているゆえに、年末商戦あるいは正月商戦を余り重視しないと考える。

 皆さんは、1番目と2番目のどちらを支持するだろうか。

 最後におまけ。リクルート社の週刊情報誌『SUUMO新築マンション首都圏版』の秋号に掲載された、77物件の記事を調べて、その完成時期と入居時期を図表にまとめてみた。

 上の図表は、マンションの完成時期である。1月と2月に完成する物件が多いのは、「3月末までに入居できるように」と配慮した結果と思われる。ただし、それ以外の月にも、完成する物件が少なくない。

 次の図表は、マンションに入居可能な時期である。3月が1番多いのはいいとして、次に多いのが4月というのは問題がある。これでは子供が入学・進学する日までには、新居に引っ越しできそうもない。

 なお、表の最下段に「即日」と記しているのは、「マンションが既に完成しているため、いつでも入居が可能な物件」である。こういう物件が、77物件のうち22物件、すなわち約29%を占めている。これらを、「マンションが完成したのに、完売できていない売れ行き不振物件」と、解釈することも可能である。

 2017年12月にもまた、首都圏では「分譲マンション12月の秘密」が観察される一方で、近畿圏では「分譲マンション12月の秘密」が観察されないのであろうか?

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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