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「斜め45度」の視点

2016年11月1日

第228回タワーマンション節税に「第2の打撃」

 10月下旬、分譲マンション事業に携わる関係者を「ドキッ」とさせる、2本の記事が全国紙に掲載された。1本目は読売新聞の「高層マンション税見直し──固定資産税、上の階ほど高く」。

 「政府・与党は2017年度の税制改正で、行き過ぎた節税を防ぐための課税強化に乗り出す。節税に利用されている高層マンション(タワーマンション)の課税の見直しが柱となる」

 「現在は部屋の広さが同じなら、階数を問わず、固定資産税は同額になる。しかし今後は、高層階は現状よりも増税し、低層階は減税するため、高層階での節税効果が薄まることになる。早ければ2018年1月から、20階建て以上の新築マンションを対象に実施する方向だ」

 これは、いわゆるタワーマンション節税に関する、いわば「第2の打撃」に相当する。

 振り返ると、タワーマンション節税という言葉が広まったきっかけは、「住まいサーフィン」を主宰するスタイルアクト代表の沖有人氏が2014年1月10日に出版した、『タワーマンション節税!相続対策は東京の不動産でやりなさい』(朝日新書)にあった。

 Amazonには次のようなキャッチコピーが付けられている。

 「評価額8割、9割減、高層階へ行くほど効果大!相続対策を考えるなら不動産、都心のタワーマンションが最適だ!どの程度の効果が出るのか、どんな物件が向いているのか?家賃収入でキャッシュリッチな生活も夢ではない。2015年の大増税に備えた、相続税対策の新常識!」

 内容を簡単にまとめる。

 「10億円の資産があるとして、それをそのまま現金で譲れば5億数千万円以上の贈与税がかかる。しかしタワーマンションの高層部の住戸は、その評価額を購入価格の2割程度まで抑えることができる」

 「さらに会社を設立し、ローンを引いて物件購入することで評価額よりも借入金額を増やし、会社の株式の贈与財産とすれば、評価額をゼロにすることができる」。

 しかし、2015年11月3日、日本経済新聞が「国税庁タワマン節税の監視強化、行きすぎには追徴課税」と題する記事を掲載した。

 「国税庁が全国の国税局に対し、タワーマンションを使った相続税対策への監視を強化するよう指示していたことが2日、分かった。相続税評価額を低く抑える手法として人気を集めていたが、行きすぎた節税策と判断されれば、今後は相続税が追徴課税される」

 これが、タワーマンション節税が浴びた、「第1の打撃」だった。今後「第2の打撃」が実施されることになれば、タワマン節税がほぼ封じられるだけではなく、タワーマンションの高層階住戸の売れ行きが落ち込んだり、価格を下げなければならない事態が訪れる可能性も否定できない。

 普通なら、この種の経済スクープ記事は日経新聞の独壇場なのになぁ・・・。そう思って日経新聞を開くと、タワーマンション節税の記事のかわりに、別に気になる記事が掲載されていた。「不動産離れる海外勢──売越額最大の5950億円、1~9月価格上昇響く」。みずほ信託銀行系の都市未来総合研究所が公表したデータを背景にした記事で、専門家のコメントも付いている。

 「価格上昇が目立つ東京都心部を中心に、不動産会社やファンドの投資意欲が冷え込んでいる。海外勢が売りに回り、買い手より売り手が多い状況が目立ってきた」(東京カンテイ上席主任研究員の井出武氏)

 「割安な日本のマンションへの投資需要は強い。価格高騰を受けて立地など、買う物件の選別はより厳しくなっている」(台湾の不動産仲介大手、信義房屋仲介の日本法人の小渡綾子氏)。

 井出氏は「不動産会社やファンドの投資意欲が冷え込む」とするのに、小渡氏は「日本のマンションへの投資需要は強い」としているので、何か矛盾している。小渡氏は台湾の資産家に限定して話しているのだろうか?

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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