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「斜め45度」の視点

2022年5月24日

第400回 土砂災害を防ぐため国交省が「盛土規制法」を制定

 国土交通省都市局は2022年3月1日付けで、以下のような内容のプレスリリースを公表しました。

 「宅地造成等規制法の一部を改正する法律案 (盛土規制法案)」を閣議決定

 危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制します!

 そして、次のような説明が続きます。

 盛土等による災害から国民の生命・身体を守る観点から、盛土等を行う土地の用途やその目的にかかわらず、危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制する、「宅地造成等規制法の一部を改正する法律案」(盛土規制法案)が本日、閣議決定されました———。

 ずいぶん、力の入った文章ですね。

[■■]熱海で発生した「衝撃的な土砂災害」の影響

 国交省が盛土規制法案を提案したのは、2021年に静岡県熱海市伊豆山地区で発生した「衝撃的な土砂災害」の影響です。

 2021年の7月2日〜3日にかけて、東海地方から関東地方南部を中心に記録的な大雨が降り続き、静岡県熱海市の伊豆山地区では実に48時間に321ミリもの降水量が記録されました。

 そのため、伊豆山地区を流れる逢初川の流域では、7月3日午前10時半頃に、斜面の頂部にあった盛土が崩落。

 それをきっかけに、一帯に「大規模な土石流」が発生。128棟の建物が損壊したのに加えて、死者26人、行方不明者1人、負傷者3人という極めて深刻な被害が発生してしまいました。

 それに関しては、本特別コラム欄に2021年8月2日付けで、『熱海市伊豆山地区で発生した土砂災害の衝撃』と題する記事を掲載しています。

 記事のURL<https://news.real-net.jp/pickup/140437>

[■■]記事『熱海市伊豆山地区で発生した土砂災害の衝撃』の要点

 記事の要点を以下にまとめておきました。

 ①神奈川県小田原市に拠点を構える不動産業者によって、伊豆山地区の頂部に「違法な盛り土」を捨ててしまう行為が、何回も繰り返されていた。

 ②この「違法行為」に関して、静岡県や熱海市が指導を試みたが、不動産業者は応じようとしなかった。

 ③その結果、2021年7月2日〜3日に降り続いた、「48時間に321ミリ」という大雨によって、「違法な盛り土」が崩壊。その「盛り土」が、斜面一帯を「大規模な土石流」として流れ落ちて、何の罪もない大勢の市民を死傷させてしまった。

 ④小田原市の不動産業者の違法行為は、決して許す訳にはいかない。

 ここで問題になるのは②の「違法行為」です。静岡県や熱海市が何回も指導したのに、不動産業者が応じなかったのは、「宅地造成等規制法」に弱点があったためです。

 それ故に政府が今回、国土交通省・都市局から提出された「宅地造成等規制法の一部を改正する法律案(盛土規制法案)」を、閣議決定かることになったのです。

[■■]「宅地造成等規制法の一部を改正する法律案(盛土規制法案)」の内容

 ①スキマのない規制
 都道府県知事等が、宅地、農地、森林等の土地の用途にかかわらず、「盛土等により人家等に被害を及ぼしうる区域を、規制区域として指定する」。

 この場合、農地・森林の造成や土石の一時的な堆積も含め、「規制区域内で行う盛土等を許可の対象とする」。

 ②盛土等の安全性の確保
 「盛土等を行うエリアの地形・地質等に応じて、災害防止のために必要な許可基準を設定する」。

 「許可基準」に沿って安全対策が行われているかどうかを確認するため、「1施工状況の定期報告」「2施工中の中間検査」「3工事完了時の完了検査」等を実施する。

 ③責任の所在の明確化
 「盛土等が行われた土地について、土地所有者等が安全な状態に維持する責務を有することを明確化する」

 「災害防止のため必要なときは、土地所有者等だけでなく、原因行為者に対しても、是正措置等を命令できることとする」。

 ④実効性のある罰則の措置
 「罰則が抑止力として十分機能するよう、無許可行為や命令違反等に対する罰則について、条例による罰則の上限(懲役2年以下、罰金100万円以下)より高い水準に強化する」等。

[■■]日本経済新聞新聞の分析

 日本経済新聞は、2022年3月1日付けで、ウェブサイトに次のような趣旨の記事を掲載しました。

 記事のタイトル「違法盛り土を厳罰化、法人へ罰金3億円法案閣議決定」

 政府は1日、盛り土の規制を強化する宅地造成等規制法改正案を閣議決定した。都道府県などが指定した区域内の盛り土を許可制とし、無許可造成などをした法人に最高3億円の罰金を科すなど厳罰化する。

 同法は「盛土規制法」に改称、宅地や森林、農地など土地の用途にかかわらず一律に規制する。2023年にも施行を目指す。

 21年7月の静岡県熱海市の土石流被害を受け、違法な盛り土への抑止力を高める狙い。熱海市では不適切に造成された盛り土が被害を拡大したとされた。

 盛り土は現状、土地の用途や場所により森林法や農地法、自治体の条例など規制が異なる。規制の緩い場所を選んで建設残土が不適切に処理されているとの指摘があり、全国知事会などから全国一律の規制を求める声が上がっていた。

 改正案では都道府県や政令指定都市などが、盛り土が崩壊した場合に人家へ被害が出る可能性があるエリアを規制区域に指定する。区域での盛り土の造成や残土処分は、排水設備の設置などの安全基準を満たした場合に許可する。

 無許可造成や是正命令違反への罰則は、個人では「3年以下の懲役または1千万円以下の罰金」に引き上げる。法人では罰金3億円以下とする。現行法では法人、個人を問わず「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」にとどまっていた。

 このほか、自治体は造成工事の途中や完成段階で、安全基準に適合しているかを検査。盛り土が行われた土地について、所有者らが安全な状態を維持する責務があることも明記する。違反が見つかった場合、所有者だけでなく、造成した業者や過去の所有者にも是正命令を出せるようにする。

 記事の中で日経新聞は、「全国知事会などから全国一律の規制を求める声が上がっていた」として、地方自治体が「違法な盛り土」問題に手を焼いていたことを強調しています。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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