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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2017年12月12日

第268回意外に奥が深いマンションにおける「トイレの世界」

 マンションのモデルルームを取材しているとき、よく話題になるのが「トイレの変遷」である。

 1995年頃まで──(1)タンク式トイレが主流

 2000年頃から──(2)タンクレストイレが主流

 2010年頃から──(3)タンクレス風トイレが主流

 まず、3種類のトイレを、簡単に確認しておこう。

 まずタンク式トイレは価格が安い。TOTOには「ピュアレストEX」という商品がある。

 次にタンクレストイレは価格が高い。TOTOには「ネオレスト」という商品がある。

 そしてタンクレス風トイレ、すなわち「タンクレス風ではあるが、実際にはタンクを内蔵している」タイプは、価格がやや高い。TOTOには「GG」という商品がある。

 このうち、(1)タンク式トイレが、(2)タンクレストイレに変わった理由は分かりやすい。タンク式トイレは広いスペースが必要だし、掃除がしにくいし、見た目に圧迫感がある。これに対して、タンクレストイレはタンクがないのでトイレが広く使えるし、掃除がしやすいし、見た目もスッキリしている。

 このため、タンクレストイレは当初、主に高級マンションで採用されて、一種のステータスになった。けれども、その後は普通のマンションにも普及し、珍しいモノではなくなった。

 続いて2010年頃からは、(2)タンクレストイレに代わって、(3)タンクレス風トイレが主流になってきた。実は、マンションのモデルルームでデベロッパーの担当者に質問しても、その理由をきちんと説明できる人は極めて少ない。10人のうち、せいぜい1人~2人程度である。このコラムを読んでいる皆さんは、その理由がお分かりだろうか。

 そのタネ明かしをしよう──。マンションの給水方式としては、水道から供給された水をいったん建物内の貯水槽(受水槽)に貯めてから各戸に配水する方式と、太い配水管を採用して各戸に直接給水する方式の2タイプがある。

 朝、マンションの各住戸で一斉にタンクレストイレを使用すると、どうなるのだろう。貯水槽タイプか直接給水タイプを問わず、水圧が低くなって洗浄力が落ちてしまう。これに加えて、停電時に洗浄できない欠点があることも分かった。このように、タンクレストイレがマンションに普及するにつれて、"隠れた欠点"が見えてきたのである。

 そのため、タンクを内蔵しているけれど、見た目はタンクレストイレに似ている「タンクレス風トイレ」が登場することになった。タンクを内蔵しているため、朝のトイレラッシュ時間帯であっても、洗浄力を確保できるのである。

 しかしながら昨年の夏頃、大手デベロッパーが建設しているタワーマンションのモデルルームで、初めて新しい組み合わせを見た。最上階にある超プレミアムフロアーだけはタンクレストイレで、それより下部はタンクレス風トイレになっているのである。

 最上階──タンクレストイレ

 それ以外──タンクレス風トイレ

 どうして、こんな組み合わせになったのだろう。担当者に質問すると、「最上階は専有面積が広い住戸が多いため、戸数自体は少なくなります。よって、タンクレストイレを設置しても、数が少ないゆえに、洗浄力の面で問題が発生することはありません」。

 このように、マンションにおける「トイレの世界」は、意外に奥が深いのである。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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