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「斜め45度」の視点

2014年3月18日

第134回「紙芝居」で見るスリーブ(貫通孔)工事

 「紙芝居」で見るスリーブ(貫通孔)工事

 「ザ・パークハウスグラン南青山高樹町」問題3

 販売中止の事態に追い込まれた、「ザ・パークハウスグラン南青山高樹町」における施工不良は、配管や配線のために、構造躯体(柱、梁、床、壁)を貫通する孔(=スリーブ)を入れ忘れたために発生した。

 躯体工事は、配筋→型枠建込み→コンクリート打設→型枠外し、という順番で行う。このうち、配筋を行うとき、貫通孔を開けたい場所にスリーブ管を置き、結束線で固定する。注意しなければならないのは、貫通孔が開くと躯体の強度が低下するので、スリーブ管周辺に補強筋を取り付けること。いずれにしても、人手不足が深刻な型枠工や鉄筋工と相前後する形で、スリーブ工事が行われる。

 鉄筋工事とスリーブ工事の関係を理解してもらうため、「紙芝居形式」でレクチュアを試みる。以下に掲載する図は、すべて大阪建設業協会が作成した小冊子「若手技術者のための知っておくべき鉄筋工事」から引用した。

 1 小冊子の表紙。


 2 事前打ち合わせの重要性。図の真ん中にいる担当者とは、工事管理者(ゼネコンの現場監督)である。


 3 スリーブとスタラップ(あばら筋)が接触した例。コンクリートのかぶり厚さも不足しているので、配筋をやり直さなければならない。


 4 CD管・PF管(電線管)と鉄筋の間隔が不十分な例。配筋をやり直さなければならない。スリーブ(貫通孔)工事には細かい注意が欠かせない。


 5 壁の開口部やスリーブの周囲は、鉄筋で補強しなければならない。


 6 建築基準法や品確法の中間検査で配筋が不十分だと、鉄筋を外して、配筋をやり直さなければならない。


 7 けれども、コンクリート打設前にミスに気づいて、配筋やり直しだけで済んだのだから、ある意味で「ラッキー」である。


 8 コンクリートが固まった後だと、対応は一気に困難になる。


9  緊急協議。「南青山高樹町」の施工不良のように、スリーブ(貫通孔)を入れ忘れたまま、コンクリートを打設してしまうと、後の措置が極めて大変になる。とりあえず、現場所長(ゼネコン)、工事管理者(ゼネコン)、構造設計者(設計事務所)、設計監理者(=設計事務所)、鉄筋工事業者(サブコン)、設備工事担当者(サブコン)が集まって協議しなければならない。


 しかし、「南青山高樹町」では、関電工のスリーブ工事責任者が現場所長に報告しただけで、設計・監理者、構造設計者、事業主には報告しなかった。

 それに加えて、現場所長とスリーブ工事責任者は、やってはいけない「禁じ手」であるはずのコア抜きを行った。これは、刃先にダイヤモンドチップのついたダイヤモンドカッターで、コンクリートに穴を開ける方法だが、間違って鉄筋を切断してしまう恐れがある。すると、建築基準法が求める耐震強度を下回る可能性が高く、そのまま購入者に引き渡すと、関係者は重い刑罰に処せられる。

 建物強度を低下させないためには、本来はウォータージェット工法を採用しなければならない。これは、ノズルから噴射された超高圧水の圧力で、コンクリートを少しずつ斫り出す(はつりだす=薄く削りとる)方法。振動が少ないため環境にやさしい、構造物に与える変形・ひずみ・残留応力が少ない、鉄筋を傷めずにコンクリートをピンポイントで除去できる、などの特徴を持つ。すなわち、鉄筋を切断する恐れがあるコア抜き工法と違って安全性は高いが、その分だけ工期が長くなる。また室内が水浸しになるので、内装工事もやり直す必要がある。

 かつて、耐震偽装事件が発生した当初、影響は姉歯元建築士が担当した物件にのみ止まるかと思われていたのだが、実際には国内各地で似たような事例が相次いで発覚した。

 今回のスリーブ入れ忘れ工事が、耐震偽装事件と同じ展開をたどることがなければよいのだが・・・。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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