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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2020年9月8日

第359回 「国交省の実態調査」で判明した「テレワークの弱点」

 新型コロナ問題の発生以降、多くの会社が、「社員がオフィスに出勤せずに、自宅でテレワークを行う」スタイルに移行しました。

 テレワークとは、「tele= 離れた所」と「work= 働く」を合わせた造語で、パソコンやインターネットなどの情報通信技術を活用して、時間や場所の制約を受けずに働くスタイルを意味しています。

 意外に知られていませんが、わが国では政府の「内閣官房、総務省、厚生労働省、国土交通省、経済産業省」が一体になって、テレワーク普及に注力しています。

 このうち国土交通省・都市局・都市政策課・都市環境政策室は、2002年からほぼ毎年、「テレワーク実態調査」を実施。そして、新型コロナ感染初期の2020年3月31日にも、『テレワーク人口実態調査報告書』を公表しました。

 上記報告書は、大きくA〜Dの4項目に分かれています。

 A テレワークの普及度、および実施の実態
 B 2019年台風15号が通過した、9月9日時点の首都圏における通勤状態
 C 新型コロナウイルス感染時における、テレワーク実施実態
 D 回答者の属性

 以下、AおよびCについて、詳しく見ていきましょう。

 報告書のURL
<https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001338554.pdf>

【■■項目A──テレワークの普及度、および実施の実態】

 ◆テレワーカーの割合
①テレワーカーは大きく、「雇用型テレワーカー」と「自営型テレワーカー」に分かれている。
  ②「雇用型テレワーカー」は、雇用者の14.8%を占めている。
  ③「自営型テレワーカー」は、自営者の20.5%を占めている。

 ◆業種別「雇用型テレワーカーの割合」
  1位─情報通信業 35.8%
  2位─学術研究・専門サービス業 29.5%
  3位─電気・ガス業 20.2%
  4位─金融・保険業 19.8%
  5位─建設業 19.0%
  6位─製造業 17.9%
  7位─教育・学習支援業 17.6%
  8位─不動産業 14.2% ★
  9位─公務員 13.1%
  10位─複合サービス業 13.1%

  ★印で示したように、不動産業は第8位なので、まずまず健闘しています。


◆業種別「自営型テレワーカー」の割合
  1位─情報通信業 50.4%
  2位─学術研究・専門サービス業 32.7%
  3位─金融・保険業 28.3%
  4位─複合サービス業 26.0%
  5位─製造業 20.5%
  6位─教育・学習支援業 18.8%
  7位─不動産業 17.9% ★
  8位─電気・ガス業 17.1%
  9位─卸・小売業 16.0%
  10位─建設業 15.9%

  ★印で示したように、不動産業は第7位なので、こちらも健闘しています。


【■■項目Aの後半──雇用型テレワーカーのプラス効果とマイナス効果】

◆雇用型テレワーカーの反応
 「全体的にプラス効果があった」と回答した人 54.7%
 「特に効果はなかった」と回答した人 39.8%
「全体的にマイナス効果があった」と回答した人 5.6%

◆雇用型テレワーカーが感じた「プラス効果の内容」
  これは雇用型テレワーカーのうち、「全体的にプラス効果があった」と回答した人(54.7%)に、「その内容」を聞いたものです。

  1位─通勤時間・移動時間が減った 53.4%
  2位─自由に使える時間が増えた 50.6% 
  3位─業務の効率が上がった 43.5% 
  4位─家族と過ごす時間が増えた 25.3% 
  5位─突発的な事態(災害発生、交通機関の遅延、子供の発熱等)に対応できた 23.2% 
  6位─病気や怪我でも出勤せず仕事ができた 11.9% 
  7位─新たな交流・人脈が生まれたり、ビジネスのヒントが得られたりした 10.7% 
  8位─育児・子育て、介護の時間が増えた 10.4% 
  9位─その他 1.4%

  この人達はテレワークが上手、あるいはテレワークとの相性が良いのでしょうね。


 ◆雇用型テレワーカーが感じた「マイナス効果の内容」
  これは雇用型テレワーカーのうち、「全体的にマイナス効果があった」と回答した人(5.6%)に、「その内容」を聞いています。

  1位─仕事時間(残業時間)が増えた 28.7%
  2位─業務の効率が下がった 27.0% 
  3位─職場に出勤している人に迷惑をかけた 22.6% 
  4位─職場に出勤している人とコミュニケーションが取りづらかった 21.6% 
  5位─職場に出勤している人に気兼ねした 16.6% 
  6位─職場にいないため、疎外感・孤独感を感じた 6.8% 
  7位─自宅に日中いることで、ご近所の方の目が気になった 3.7%

 この人達はテレワークが下手、あるいはテレワークとの相性が悪いのでしょうね。


【■■項目C──新型コロナウイルス感染症対策におけるテレワーク実施実態調査】

 繰り返しになりますが、国土交通省・都市局・都市政策課・都市環境政策室が、2020年3月31日に公表した『テレワーク人口実態調査報告書』は、大きくA〜Dの4項目に分かれています。

 A テレワークの普及度合いと実施実態調査
 B 2019年台風15号通過日(9月9日・月)の首都圏の通勤行動調査
 C 新型コロナウイルス感染症対策におけるテレワーク実施実態調査
 D 共同利用型オフィス等の利用状況調査

 ここまではAについて説明してきました。次に注目度が高いと思われる、C「新型コロナウイルス感染症対策におけるテレワーク実施実態調査」、について説明していきましょう。

 ◆①勤務先にテレワーク制度のある雇用型テレワーカー
  テレワークを実施するよう指示・推奨があった人の割合 67.0%

 ◆②勤務先にテレワーク制度のない雇用型テレワーカー
  テレワークを実施するよう指示・推奨があった人の割合 19.8%

 このように「①勤務先にテレワーク制度」があれば、イザという時(=新型コロナの突発時)にも対応可能です。そのため67.0%もの人にテレワークの指示が出ました。

 しかし、「②勤務先にテレワーク制度」がなければ、イザという時に対応が難しいのは仕方がないのかもしれません。そのためわずか19.8%の人にテレワークの指示が出ただけでした。

【■■新型コロナ対応時の苦労】

 次は、新型コロナ感染症対策としてテレワークを実施しているうちに、「問題がある」と感じた点について説明しましょう。

 「主として会社側の問題」
  会社でないと閲覧・参照できない資料やデータがあった 26.8%
  同僚や上司などとの連絡・意志疎通に苦労した 9.7%
  会社のテレワーク方針が明確ではないため、やりずらかった 9.6%
  営業・取引先などとの連絡・意志疎通に苦労した 9.2%

 いずれも、「そうだろうな」と思われる項目が並んでいます。

「主として働く側の問題」
  自宅に仕事に集中できる環境(スペース・机・椅子など)がなく、仕事に集中できなかった 7.0%
  自宅が仕事に専念できる状況でなく(家事や育児の問題)、仕事に集中出来なかった 4.8%
  セキュリティ対策に不安があった 3.1%

 こちらは、「家庭によって事情が異なる」ような項目です。

 この『テレワーク人口実態調査報告書』は、2020年3月31日に公表されたものです。

 振り返ると、日本国内で初めてコロナ感染者が報告されたのは1月16日でした。そして、3月21日には感染者数が1000人を超え、3月24日には「東京オリンピック2020大会」の延期が決まりました。

 国交省の「テレワーク人口実態調査」は、そういう時期に行われ、調査結果は3月31日に公表されました。それゆえに、「混乱していた当時の雰囲気」が色濃く反映されているような気がします。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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