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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2012年2月21日

第59回初めて見た「不便でない」バス便マンション

 最寄り駅から徒歩15分以上のマンション、もしくは最寄り駅からバスを利用する「バス便マンション」は、都心に通勤する人たちから総じて人気がない。

 バス便マンションの長所は、1に環境がよいこと、2に価格が安い割に専有面積が広いこと、3に治安がいいこと。それでも、人気がないのは、バスの便数が少ないのに加えて、運行スケジュールが安定しないため、不便であるからだ。

 そのため、積極的に「バス便マンション」という言葉を、ポジティブに使うデベロッパーは多くない。

 筆者が記憶している限りでは、郊外物件を得意とするフージャースコーポレーションの廣岡哲也社長にインタビューした際、「当社は愚直にバス便マンションをつくり続けます」という言葉を聞いたことがある程度だ。ただし、これは、リーマンショック以前のことなので、現在も同じ方針かどうかは分からない。

 しかし、最近、東京・目黒区下目黒6丁目で、「バス便マンション」という言葉をポジティブに使ってみたいマンションと初めて出会った。

 このマンションまで、最寄りの東急目黒線「武蔵小山駅」から徒歩13分、東急東横線「学芸大学駅」から徒歩20分と、かなり遠い。しかし、山手線・目黒駅からバスに乗り、目黒通りの目黒消防署停留所で降りれば、徒歩で5分しかかからない。

 バス便マンションで困るのは、バスがいつ来るか分からないこと。しかし、目黒消防署停留所で止まる「上りのバス」は、朝の7時、8時台には、各40本を超える。すなわち、1.5分に1本の割合なので、申し分がない。

 また、夕方の18時、19時、20時台でも、「下りのバス」が各25本走るので2.5分に1本の割合になる。ちなみに、東急目黒線「武蔵小山駅」への「下り電車」は、18時、19時、20時台には各15分。すなわち、4分に1本の割合なので、バスの方がはるかに便利である。

 なぜ、このようにバスの本数が多いのか。それは、目黒郵便局と目黒駅の間は、6路線のバスが走るいわば「特異路線」になっているからだ。

 このマンションの名前は「シティテラス下目黒」、分譲主は住友不動産である。

 ちなみに、「都心に住む」(リクルート)2011年12月号の第2特集は、「東京はバスの森」。「都心はバス便が発達しており、電車とバスをうまく使い分けることで、住まい選びの範囲も広がる」と、バスの便利さを紹介している。

 具体的に取り上げたのは、「渋谷・池尻大橋・中目黒」、「目黒・白金」、「麻布」「新宿・初台・渋谷」「佃・月島・勝どき」の6エリアである。

 はたして、「シティテラス下目黒」に続く、不便でない「バス便マンション」が現れるだろうか。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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