リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2013年1月15日

第90回「ワールドシティタワーズ」という『希有』なマンション

 住友不動産が分譲した大規模超高層マンション、「ワールドシティタワーズ」は、3重の意味で『希有(けう)』なマンションとなった。『希有』とは、珍しいこと。

 「ワールドシティタワーズ」の所在地は、東京都港区港南4丁目。2004年2月に着工し、2007年2月に竣工した。アクアタワー、ブリーズタワー、キャピタルタワーの3棟で構成され、42階建、全2090戸。この戸数は、単一事業主による民間分譲マンションとして、日本最大の規模になる。

 よって、第1の『希有』は「日本最大の規模」である。

 「ワールドシティタワーズ」の販売は、2004年に開始され、2012年に終了した。完売するまでに、9年間もかかっている。ざっと計算すると、竣工前に毎月30~20戸、竣工後に毎月20~10戸ペースで販売し続けたことになる。

 これは、業界関係者にとってだけではなく、一般ユーザーにとっても驚きであったようだ。「マンションコミュニティサイト(e-mansion)」の掲示板でも、長期間にわたって話題になり続けた。

 「WORLD CITY TOWERS(再販売)──その26─No.74」に、匿名者の意見がある。「記念すべき販売期間。10年までもう一歩でしたか」 。これは、どうせだったら、あと1年かけて、10年間にした方がきりが良かった、とする感想である。

 また、「No.80」に、2012年08月22日付けで、管理担当者が次のように記している。

 「管理担当です。いつもご利用ありがとうございます。本物件の完売および入居開始を確認いたしました。今後につきましては、以下住民版のスレッドをご利用いただきますようお願いいたします」

 このように、第2の『希有』は「9年がかりの販売」である。

 さらに、住友不動産が、「価格の微調整は行うが、大幅な値引きは行わない」姿勢を貫き通したこと。その事実は、マーキュリー社の不動産情報ポータル「リアナビ」、すなわち本ウェブサイトの「ニュース&トピックス─価格改定情報」を、丹念にチェックしていれば確認可能だった。

 つまり、第3の『希有』は、「値引きしなかった事実」である。

 以上のように、「日本最大規模のマンション」を、「値引きを行わず」に、「9年がかりで完売」したことにより、「ワールドシティタワーズ」は3重の『希有』(珍しさ)を持つマンションになり得たのだが、話はこれでは終わらない。

 2011年10月21日、不動産マーケティングの「アトラクターズ・ラボ」は、「首都圏分譲年別代表物件の中古騰落率」を発表した。これは、「新築時の住戸価格」と「2011年に売り出された住戸の現在価格(中古価格)」を突き合わせて、新築時からの騰落率を算出したもの。

 「ワールドシティタワーズ」の数字を示す。

 事例数 529件

 新築時単価 77万円/平米(254万円/坪)

 想定成約単価 82万円/平米(270万円/坪)

 平均騰落率 7.1%

 要するに、中古価格が新築時価格を上回っている。すると、新しい疑問が湧いてくる。「それなら、なぜ、販売に9年間もかかったのか?」

 賢明な読者は、すでに、回答がお分かりであろう。よって、ここには、あえて回答を書かない。

 『希有』という言葉には、2つの意味がある。1つは「珍しい」、もう1つは「不思議」である。

 「ワールドシティタワーズ」は、中古価格が新築時価格を上回っているにもかかわらず、販売に9年間もかかった『希有』(不思議)なマンションとして、長く記憶に残ると思われる。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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