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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2011年12月22日

第53回マンションは地震に弱かった

 私は日経産業新聞に「目利きが斬る」と題するコラムを持っている。月に1回のペースで、主に分譲マンションを評価する記事を寄稿するほか、1月1日に発行される正月版では「今年の新製品ヒットの条件」という記事を書く。

 2012年1月1日付けでは、東日本大震災に関係して、「地震に強いマンションを」と題する記事を掲載の予定である。

 被災当初には「マンションは地震に強かった」と伝えられた。しかし、5月には「キラーパルスが弱かっただけ」と評価が変わった。そして、秋になると、「マンションは地震に弱かった」と評価が大逆転してしまった。その理由を解説した記事である。

 原稿を書き終わると、前にも、似たような感じの記事を書いたことを思い出した。いろいろ調べると、2006年の正月記事だった。

 【2006年1月1日──「耐震メニュー」の充実を】

 姉歯秀次元建築士の構造計算書偽造事件で風向きはがらりと変わった。マンション各社にとって、「耐震メニュー」の充実が2006年の最大のテーマに浮上した。

 その後に書いた正月記事も紹介しておこう。

 【2008年1月1日──駄目マンションに要注意】

 マンション各社が改正建築基準法による建築確認の遅れを取り戻そうとして、建設会社に短かすぎる工期を強いている。短工期が施工ミスを誘発して生まれる「欠陥マンション」に注意しなくてはならない。

 【2009年1月1日──分譲マンション大乱の年】

 昨年は新興デベロッパーが相次いで倒産した。今年も分譲マンション大乱の年となる。市況の低迷が続き、不動産各社は厳しい環境に置かれるだろう。

 こう振り返ると、2008年、2009年とも、決して楽な年ではなかった。

 【2010年1月1日──エコマンション本格化へ】

 住宅メーカーはエコ住宅の普及に向けて勢いよく走り、「太陽光発電は当たり前」と考える会社が多い。これに対して、マンションデベロッパーもエコマンションにようやく本腰を入れ始めた。

 【2011年1月1日──「用強美」兼備のエコ住宅へ】

 古代ローマの時代から、建築に必要な三要素は「用強美」とされてきた。「用」は機能や用途そしてエネルギー効率、「強」は構造や耐久性、「美」はデザイン力や景観との調和を意味する。エコ住宅の時代になり、ともすると「用」に目が奪われがちな傾向があるが、「美」をおろそかにしては世界の共感を得られない。

 2010年、2011年は「前向き」の正月記事になっているのだが、2011年3月11日の東日本大震災が風向きを一変させた。

 【2012年1月1日──地震に強いマンションを】

 東日本大震災の発生から間もない昨年4月、高層住宅管理業協会(高住協)が「マンションの倒壊、大破はともにゼロ」との調査結果を発表し、「マンションは地震に強かった」とする安心感が広がった。しかし、昨年秋になると、一転して「マンションは地震に弱かった」という厳しい現実が判明した。

 マンションはどのように地震に弱かったのか。その詳細は、次回に紹介する。

 今年はこれで最後になります。新年が日本にとって、また皆さまにとって、良い年になりますように、心からお祈り申し上げます。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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