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「斜め45度」の視点

2020年7月7日

第355回 野村総研の「新設住宅着工戸数」に関する衝撃的な見解

 日本を代表するシンクタンクとして評価が高い「野村総合研究所(略称NRI)」は、新型コロナ問題について様々な情報を発信しています。

 そういう中で、2020年6月9日に、「新設住宅着工戸数」に関する衝撃的な見解を公表しました。

 要点1──「新型コロナ問題の影響で、2020年度の新設住宅着工戸数は、2019年度の88万戸という実績から、一気に15万戸(17%)も減少。実に73万戸へと落ち込む見込み」。

 要点2──「この73万戸という数字は、2009年度にリーマンショックで記録された78万戸という数字と比べて、5万戸も下回っている」。

 要点3──「長期的に考えると、2040年度の新設住宅着工戸数は、41万戸にまで減少する見込み」。

 不動産各社で働く皆さんにとっては、思わずため息が出てくるような数字が並んでいます。

 リリースのURL<https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/lst/2020/cc/0609_1>

【■■新設住宅着工戸数の「実績値」と「予測値」】

 まず、「新設住宅着工戸数の実績と短期的予測結果」と題する図を眺めてください。


 ①2019年度までの「新設住宅着工戸数の実績値」
  2017年度──95万戸
  2018年度──95万戸
  2019年度──88万戸

 ②2022年度までの「新設住宅着工戸数の予測値」(新型コロナ問題の発生前)
  2020年度──85万戸(2019年度の実績値から3万戸減)
  2021年度──82万戸(2019年度の実績値から6万戸減)
  2022年度──80万戸(2019年度の実績値から8万戸減)

 このように、新型コロナ問題が発生する前から、「新設住宅着工戸数が落ち込む傾向にあること」は予想されていました。

 ③2022年度までの「新設住宅着工戸数の予測値」(新型コロナ問題の発生後)
  2020年度──73万戸(2019年度の実績値から15万戸減)
  2021年度──74万戸(2019年度の実績値から14万戸減)
  2023年度──80万戸(2019年度の実績値から8万戸減)

 そして、実際に新型コロナ問題が発生すると、予想は大幅に修正されて、「新設住宅着工戸数はさらに大きく落ち込む傾向にある」と書き直されたことになります。

 ちなみに、リーマンショックの影響で大きく落ち込んだ、2009年の着工戸数は78万戸でした。すなわち、2020年度(73万戸)、2021年度(74万戸)の着工予測戸数は、リーマンショック時の水準を、さらに数万戸も下回っているのです。

 注意しなければならないのは、2020年5月末に緊急事態宣言が全国的に解除されたものの、今後も感染の第2波が警戒されるなど、経済活動の先行きは不透明であることです。

 すなわち、新型コロナ問題の影響が長引けば、着工戸数がさらに落ち込む可能性も否定できません。

【■■野村総研が開催したメディアフォーラムの要点】

 野村総研(NRI)は、「新型コロナ問題に関するニュースリリース」を公表した6月9日に、「メディアフォーラム」」を開催しました。

 そのテーマは、「2040年の住宅市場と課題──長期的展望と新型コロナウイルスによる短期的影響の分析」。フォーラムの要点もまとめておきましょう。

◆要点A──新設住宅着工戸数に影響を与える因子

 中長期予測モデルにおいて、新設住宅着工戸数に大きく影響を与えるのは、「①移動世帯数、②住宅ストックの平均築年数、③名目GDP成長率」の3点。

 ①移動世帯数
 移動世帯数は、2019年の421万世帯から、2030年には387万世帯、2040年には344万世帯へと減少していく見通し。

 ②住宅ストックの平均築年数
 住宅ストックの平均築年数は、2013年の「22年」から、2030年には「29年」、2040年には「33年」へと延びる見通し。 

 ③名目GDP成長率
 名目GDP成長率は、新型コロナウイルスの影響で短期的には大きく変動。中長期的には成長は鈍化し、2035年にはマイナス0.1%に落ち込む見通し。

 ◆要点B──新設住宅着工戸数の予測

 ①移動世帯数の減少、②平均築年数の伸長、③名目GDPの成長減速等により、新設住宅着工戸数は2030年度には63万戸、2040年度には41万戸に減少する見通し。


 ◆要点C──利用関係別に見た新設住宅着工戸数の予測結果

 持家・分譲住宅・貸家(給与住宅を含む)のいずれも漸減。2030年度時点で、それぞれ21万戸、16万戸、26万戸になる見通し。

 メディアフォーラム資料のURL
<https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/report/cc/mediaforum/
2020/forum287.pdf
>

【■■不動産業界は前期比でマイナスになったが、他業界に比べると被害が少ない】

 なお、野村総研は2020年4月30日に、新型コロナ問題に対する緊急提言として、次のようなタイトルの「スタディーレポート」を公表していてます。

「ベイズ構造時系列モデルを用いた、新型コロナウイルスが産業に与える影響の予測──上場企業の売上高に与える影響は約108兆円」。

 これは33種類の業種別に、新型コロナ問題の顕在化に伴う売上高の変化を比較した研究です。具体的には、以下のような計算をしています。

 A「2020年3月時点の各業種の売上高予測(新型コロナの影響を考慮)」

 B「2020年2月時点の各業種の売上高予測(新型コロナの影響を考慮していない)」

 C「A−B=新型コロナ問題による影響金額(推定値)」

 そして、売上高の落ち込み順に並べた「業種別ワーストランキング」は次のようになっています。


 1位「輸送用機器──マイナス22兆1140億円」
 2位「卸売業──マイナス16兆1110億円」
 3位「電気機器──マイナス12兆8180億円」
    ・・・
 19位「建設業──マイナス1兆2570億円」
    ・・・
 28位「不動産業──マイナス3870億円」
    ・・・
 32位「その他金融業──マイナス140億円」
 33位「医薬品──プラス7040億円」

 このように、33業種のうち売上高が前期より向上すると予測されたのは、再末尾に記した「医薬品業界のプラス7040億円」だけです。コロナ問題が医薬品業界の売上に貢献するだろうことは、直感的に理解できます。

 注目の不動産業は28位(下から6番目)に位置して、売上高を前期比「マイナス3870億円」に抑えています。したがって、「不動産業界は落ち込んだけれども、他業界に比べると被害が少なかった方」と総括できることになります。

 レポートのURL<https://www.nri.com/jp/keyword/proposal/20200430>

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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