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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2016年5月10日

第210回熊本地震で縦に割れた「サーパス平成」

 熊本地震では、4月14日に震度7の前震があって、16日に同じく震度7の本震があった。震度7の地震が2回も発生したのは前代未聞に近い。さらに余震でも、震度6強が2回、6弱が3回、5強が3回、5弱が7回と、建物に深刻な影響を及ぼす地震が続いている。

 そのため4月下旬の時点で、損壊が1万2000棟、全壊が1700棟に及んでいる。

 気象庁の「震度階級解説表」は、1983年以降に完成した「新耐震基準」のマンションでも、次のような被害が発生すると述べている。

 震度6弱──壁、梁、柱などの部材に、ひび割れ・亀裂が入ることがある。

 震度6強──壁、梁、柱などの部材に、ひび割れ・亀裂が多くなる。

 震度7──壁、梁、柱などの部材に、ひび割れ・亀裂がさらに多くなる。1階あるいは中間階が変形し、まれに傾くものがある。

 熊本県ではどうだったのか。これについて建築専門誌「日経アーキテクチュア」のウェブサイトは、「1974年に竣工した鉄筋コンクリート造、地上9階建、総戸数41戸の分譲マンションの1階が圧壊している」ケースを報告している。1階が駐車場になっているため柱が少ない、いわゆる「ピロティ」形式だった。

 気象庁の「震度階級解説表」は、1981年以前に完成した「旧耐震基準」のマンションは、「震度7では1階あるいは中間階の柱が崩れ、倒れるものが多くなる」と述べている。その解説表通りの被害が発生していたのである。

 震度7クラスの大地震が発生すると、全国から「応急危険度判定員」が動員されて被災建物を調査し、緑(安全)、黄色(要注意)、危険(赤色)の3色ステッカーを貼っていく。今回の判定員は600名規模とされている。

 東日本大震災の時には、東京カンテイや高層住宅管理業協会(現、マンション管理業協会)が仙台市などに調査員を派遣して、マンションに関して詳しい被害報告書をまとめた。今回も、この記事が掲載された頃には、報告書が公表されている可能性がある。

 それとは別に、Twitterに「うちのマンション、割れてます」というインパクトのあるメッセージとともに報告された、「サーパス平成」の被害は広く知られている(写真は福岡大学建築学科の森田慶子氏が4月15日に撮影)。

 配置図に示すように、建物は北棟と南棟に分かれていて、2つの棟はエキスパンション・ジョイント形式の渡り廊下でつながっている。このジョイント部分がスパッと縦に割れて、床に隙間が空いているため、2つの棟を行き来するときには、怖い思いをしてジャンプしなければならない。最上部は腰壁( 茶色 )が折れて垂れ下がっているので、落下すると危険である。

 構造専門家の見立ては2段階方式になる。

 第1段階。「エキスパンション・ジョイントが割れたのは、構造設計の意図通りだったので、当初の目的を果たしたことになる」。

 第2段階。「ただし、床に隙間が空いたり、腰壁が垂れ下がったりして、住民を危険にさらしたのは当初の意図を逸脱している。エキスパンション・ジョイントのクリアランス(隙間)が不足していたのではないか」。

 【サーパス平成の概要】

 所在地 ─ 熊本県熊本市中央区世安町

 規模 ─ 13階建、89戸

 構造 ─ 鉄骨・鉄筋コンクリート造

 売主 ─ 穴吹工務店

 施工者 ─ 穴吹工務店

 管理 ─ 穴吹コミュニティ

 竣工 ─ 1999年1月

 中古坪単価 ─ 64万?71万円

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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