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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2015年11月24日

第194回三菱地所レジデンスが「江戸の喧嘩に、京都で仇討ち」?

 (193回から続く)

 三菱地所レジデンスが行った「ザ・パークハウス京都鴨川御所東」の記者発表会の質疑応答では、住戸の価格や平均坪単価を巡って、記者から情報を求める質問が集中した。その最中に、日経新聞のB記者からきつい意見が飛び出した。

 Q「最高価格が7億円超といっても、7億1000万円と7億9000万円ではまったく違う。きちんとした数字を出せないのなら、記者発表にならないのではないか」

 A「価格は未定なのでお答えできません」

 ここまでの質疑応答を通じて浮き彫りになってきたのは、マンションに詳しい専門記者と、マンションが取材対象の「ワン・ノブ・ゼン」に過ぎない一般記者との感覚の違いである。

 マンション専門の記者であれば、マンションの価格は最近、モデルルームをオープンした後に、想定購入者の懐事情を調べてから決まることを知っている。それに対して一般記者は、モデルルームをオープンするときには、デベロッパーは価格を決めているはずと考えている。

 最近の傾向を振り返ってみると、三井不動産レジデンシャルや野村不動産は、想定購入者の懐事情を調べて価格をほぼ決定した後に、記者発表を開くため、価格や平均坪単価をスラスラと答えてくれる。その一方では、価格が未定な段階では物件情報に応じてくれないもどかしさがある。

 これに対して、三菱地所レジデンスは「ザ・パークハウス京都鴨川御所東」に関して、西日本最高価格7億円超というニュース価値を重視。価格が確定していない段階であるにもかかわらず、情報公開を急いだために、記者発表の席でいわば「一斉射撃」を浴びる事態になってしまった。なんとも悩ましい限りである。

 さて、話が価格を離れて、この敷地(京都財務事務所の跡地)の落札価格が話題になった。日経新聞のA記者だったかB記者だったか判然としないが、どちらかが質問した。

 Q「落札価格はいくらでしたか」

 A「お答えできません」

 Q「国有財産の一般競争入札の落札価格は情報公開の対象になっています。調べれば分かる数字なのではないですか」

 A「それでもお答えできません」

 このやり取りを聞いていて、私は三菱地所レジデンスは少し大人気ないように感じた。実際問題として、「産経新聞社sankei.com」は2014年3月9日付けで、次のように報じている。

 「京都御所に近い京都市上京区の鴨川沿いにある京都財務事務所跡地約5100平方メートルの入札が昨秋実施され、大手マンション事業者が63億円で落札した」。

 「同市内では、最寄り駅から徒歩10分という好立地でまとまった広さの土地が売りに出る機会が少ないことから、最低落札価格18億円の3倍超につり上がった。近畿財務局の担当者は『価格が過度にあおられるのは好ましくないが、貴重な税外収入だ』と話す」。

 しかし、しばらく考えているうちに、ふと思い出した出来事があった。日経新聞による、「三菱地所が東京駅前の常盤橋エリアで予定している日本一超高層ビル計画」のすっぱ抜き事件である。

 三菱地所は本来、8月31日に記者発表を行って超高層ビル計画を発表する段取りだったのに、日経新聞はその2日前の8月29日の朝刊に、スクープ記事として掲載。これに反発した三菱地所は、8月31日に行った記者発表の会場の入り口に、「日本経済新聞社は入場をお断りします」という張り紙を表示したのである。当然のことながら、三菱地所と日経新聞の対立は、その筋では大きな話題になった。

 三菱地所レジデンスは、江戸での喧嘩を思い出して、京都で仇討ちしたのだろうか。

 「ザ・パークハウス京都鴨川御所東」から見る大文字山

 室内から大文字山を見る

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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