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「斜め45度」の視点

2016年4月5日

第207回国交省「マンション・コミュニティ殺し」政策のてん末

 国土交通省住宅局マンション政策室は2016年3月、多くのマンションで管理規約の標準ルールになっている「マンション標準管理規約」を改正した。その最大の特徴は、各方面から厳しい批判を浴びた「マンション・コミュニティ殺し」政策を、かたくなに貫ぬこうとした点にある。

 本コラムの第175回(2015年5月)で次のように述べた──。

 国交省マンション政策室が設置した「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」が、同年3月、次のような報告書案をまとめた。

 一。「マンション標準管理規約」に手を加えて、マンション管理組合の業務を定義する第32条の中から、「地域コミュニティにも配慮した、居住者間のコミュニティ形成」という項目を排除する。

 二。管理費の用途を定義する第27条の中から、「居住者間のコミュニティ形成に要す費用」という項目を排除する。

 この報告書案は今後、「パブリックコメント(意見公募)」という手続きを経て、同年7月頃に正式な報告書として確定。その後に新しい「マンション標準管理規約」が成立する段取りになっている。

 これに対して、日本マンション学会・マンション各社・マンション管理組合・マンション管理会社などが、「マンションのコミュニティを殺すのは許されない」として強く反発している。

 特にコミュニティ条項の排除にこだわっている、検討会メンバーの福井秀夫・政策研究大学院大学教授、安藤至大・日本大学准教授(元、政策研究大学院大学助教授)、村辻義信・政策研究大学院大学客員教授(弁護士)の3氏は、「政策大学のマンション・コミュニティ軽視派3人組」として、非難され続けている──。

 国交省の目論見では2015年7月には、新しい「マンション標準管理規約」が成立するはずだったが、大もめにもめたためスケジュールは大幅に遅れて、2016年3月という年度末になってかろうじて成立したのである。

 それでは、どのような「マンション標準管理規約」が成立したのだろうか。これが大きく2つの相反する手法を組み合わせているため、極めて分かりにくい。

 【第1の手法─区分所有法に基づく措置】

 根拠となるのは、区分所有法第30条の「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる」、という条文である。

 この条文に基づいて、「平成28年3月14日国土動指第89号、国住マ第60号」という国交省住宅局長の通知を出した。その通知は「マンション標準管理規約」という文書と、「マンション標準管理規約コメント」という、2種類の文書から構成されている。

 このうち前者(標準管理規約)は多くのマンションで管理規約の標準モデルとして使われるもので、後者(コメント)はその解説文に相当する。

 新しい「標準管理規約」からは、コミュニティに関する2項目をバッサリ排除した。

 一。マンション管理組合の業務を定義する第32条の中から、「地域コミュニティにも配慮した、居住者間のコミュニティ形成」という項目を排除。

 二。管理費の用途を定義する第27条の中から、「居住者間のコミュニティ形成に要す費用」という項目を排除。

 これによって、「マンション・コミュニティ軽視派3人組」は目的を果たした形になった。

 【第2の手法─マンション管理適正化法に基づく措置】

 根拠となるのは、マンション管理適正化法第3条の「国土交通大臣は、マンションの管理の適正化の推進を図るため、管理組合によるマンションの管理の適正化に関する指針を定め、これを公表するものとする」、という条文である。

 この条文に基づいて、「マンションの管理の適正化に関する指針」(平成28年3月14日国土交通省告示第490号)という大臣告示を出した。

 その指針では、「マンションにおけるコミュニティ形成は、日常的なトラブルの防止や防災減災、防犯などの観点から重要なものであり、管理組合においても、区分所有法に則り、良好なコミュニティの形成に積極的に取り組むことが望ましい」と述べている。

 また「特に管理費の使途については、マンションの管理と自治会活動の範囲・相互関係を整理し、管理費と自治会費の徴収、支出を分けて適切に運用することが必要である」と強調している。

 このように、区分所有法に基づく第1の手法では、「地域コミュニティにも配慮した、居住者間のコミュニティ形成」および「居住者間のコミュニティ形成に要す費用」という2項目をバッサリ排除した。それにもかかわらず、マンション管理適正化法に基づく第2の手法では、「区分所有法に則り、良好なコミュニティの形成に積極的に取り組むことが望ましい」としている。

 つまり、第1の手法と第2の手法は、明らかに矛盾している。そのためパブリックコメントの段階で、「標準管理規約において管理組合の業務からコミュニティ活動を削除しながら、適正化指針で良好なコミュニティ形成を積極的に展開すべきとするのは、一貫性を欠いている」と厳しく批判された。

 しかし、国交省マンション政策室はそのコメントを無視して、逃げ切ろうとしたのである。ただし、矛盾が残っているのだから、今後も、もめ事の火種になる可能性が大きい。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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