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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2011年10月4日

第45回宅建業法を改正しても「ストーカー行為」は防げない

 かつて賃貸マンションに住んでいたとき、「分譲マンションを買いませんか」という勧誘電話を3日連続で受けたことがある。

 最初の日は夜の10時前、翌日は夜9時頃、翌々日は夜10時過ぎだった。すべて、中堅デベロッパーMJ社からの同一物件を勧誘する電話だった。電話をしてきたのは、最初はA、翌日はB、翌々日はCと、すべて別人であった。

 時間が遅いのは、帰宅が遅かったためだが、私の最大の関心事は、「初めにきっぱりと断ったのに、なぜ、翌日と翌々日にも電話がかかって来たのか」だった。

 ある意味ではちょうどいい機会でもあったので、取材先でもあるMJ社の広報担当者に連絡して、事情を調べてもらった。その結果、次のようなことが分かった。

 (1) 私の賃貸マンションが、販売物件の近くだった。

 (2) 販売担当者が、何らかの方法で、私の住所と電話番号を入手した。

 (3) 販売センター(電話センター)では、ターゲットリストを見ながら、複数の担当者が手分けして電話勧誘した。そして、本来なら、私が勧誘を明確に断ったのであるから、Aはリストを×(電話してはいけない)にしなければならなかったにもかかわらず、△(もう1度電話してみる)としてしまった。

 (4) 翌日、今度は選手交代で、Bが電話勧誘。彼も、×にしなければならなかったにもかかわらず、おそらく注意不十分のため、またもや×にしなかった。

 (5) 翌々日、選手交代したCが電話勧誘。私に強く注意されたので、明確に×印を付けた。

 販売の舞台裏が何となく感じ取れるような報告だったので、了承した。

 さて、国交省は、投資用ワンルームマンションを中心とした不動産購入の悪質な勧誘行為を規制するため、宅建業法の省令を改正して、10月上旬にも施行する方針だ。骨子は、「再勧誘の禁止」「深夜勧誘の禁止」「事業者名や目的を明示しない勧誘の禁止」の3点になる。

 省令改正について審議するために召集された、社会資本整備審議会不動産部会で、「悪質な勧誘行為について」と題する資料が配布された。その中に、気になる実例が掲載されていた。少し長いが、驚くような内容なので、目を通してほしい。

 「普段から非通知の電話は出ないようにしていたが、昨夜たまたま夫が電話に出た。投資用マンションを買わないかと勧誘されたため、興味はありませんと言ってすぐに切った。すると間髪いれずに電話があり、再度夫が電話に出たら、なぜすぐに切ったのかと事業者が怒り出した。夫が住所と電話番号を教えて欲しいというと電話では言えないことになっていると拒否された。なぜ先に 電話を切るのかと言われたため、夫がでは先に切ってくださいと言ったが切らないため、再度切るとまた電話があり、今度は自分が出た。すると何を八つ当たりしているのだと言い始めた」

 「自宅と職場に50回ほどかかってくる。断って切るとすぐかけてきて恫喝されるし、切ろうとしても切らせてくれず、20~30分話を聞く羽目になる。自宅にかかる電話は取らないようにしているが、職場にもかかってきて業務にも支障をきたしている。職場の数人の従業員にも同様の勧誘をしているようだ。相手は個人名しか言わなかったり、友人を装ったりするので電話受付けの職員が繋いでしまい、その職員もノイローゼ気味になっている」

 「自宅に非通知で電話がかかった。電話に出た夫が話を聞くとオーナーズマンションの話だったので、興味がないと断ったが、その後何度も電話がかかる。一昨日は断ろうとすると、『家に火をつけてやる、近所や勤務先にお前が痴漢をしたと言いふらす、いつ死にたいですか』と脅された。担当者に業者名を何度確認しても答えないため社名も不明だが、勤務先も住所も知られているため怖い」

 いずれも、通常のビジネスベースとはかけ離れた、いわゆるストーカーのようなつきまとい方だ。宅建業法の省令を改正したとしても、この手のストーカー行為を防ぐのは難しい。不動産業界として、勧誘電話の担当者または業務の委託先に、異常な行動をする人が紛れ込んでいないかどうか、念のために点検してほしい。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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