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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2016年3月15日

第205回横浜「傾斜2物件」に見る5つの共通点

 杭の施工不良により傾斜した「パークシティLaLa横浜」と「パークスクエア三ツ沢公園」には、5つの共通点がある。

 まず2物件の概要をまとめた。

 1番目の共通点は、確認検査機関がともに日本ERIであること。同社は2005年11月17日に発覚した姉歯事件(耐震偽装事件)に際して、イーホームズに次いで数多くの物件を手がけ、その審査が甘かったとして後に国交省から処分を受けている。

 「三ツ沢公園」は姉歯事件が進行していた段階の物件で、「LaLa横浜」は姉歯事件が発覚した直後の物件である。日本ERIの審査能力に問題があったとしか思えない。

 2番目の共通点は、支持層に凹凸が多い横浜市特有の地形に対する備えが甘かったため、杭が支持層に届いていなかったこと。これはまず、十分に調査しなかったマンションデベロッパーの責任であり、つぎに設計者と施工者の責任である。

 ボーリング調査の費用を惜しんだために、結果として全棟建替に追い込まれただけではなく、ブランドイメージが大きく傷ついてしまった。

 3番目の共通点は、複数の棟がエキスパンションジョイントでつながれた構造になっていて、東日本大震災の影響でそのジョイント部にある手すりにズレが生じたため、住民が異常に気づいたこと。仮に単棟構成であれば、住民が異常に気づかなかった恐れもある。

 4番目の共通点は、「三ツ沢公園」も「LaLa横浜」も、当初は単に支持層の凹凸を見逃したため、杭が支持層に未達だったのだろうと思われていたのに、時間が経つにつれて別の不具合が発覚したこと。

 (1)「三ツ沢公園」=「支持層見逃し」+「スリーブの鉄筋切断、補強忘れ」

 (2)「LaLa横浜」=「支持層見逃し」+「地盤沈下」+「既存杭悪影響」+「ダイナウィング工法のミスマッチ」

 マンションの欠陥問題で最悪なのは、この種のケースで、住民の苦労が長引き、メディアがそれに同情して厳しく取材するため、事業者と建設会社はじわじわと追い込まれていく。

 5番目の共通点は、いずれも最寄り駅から徒歩10分以上、平均占有面積80平米超、価格が約3900万?約4000万円という、郊外型のファミリー向け物件だったこと。

 さて、杭の施工不良が発覚してテレビ、新聞、雑誌、インターネットの各メディアがこれを伝えたとき、雑誌とインターネットメディアはマンションの実名で伝えたのだが、どういうわけかテレビや全国紙は実名ではなく、西区の傾斜マンションとか都筑区の傾斜マンションとして実名を伏せた。

 このため、マンションに住む子供たちは、「やーいっ、傾斜マンションに住んでいる!」とからかわれて、つらい思いをしたというのだから気の毒だった。

 私はかつて建築専門誌「日経アーキテクチュア」と土木専門誌「日経コンストラクション」の編集長だった。前者は2014年5月25日号で「品質崩壊の足音」を特集し、後者は2015年12月28日号で「品質神話の崩壊」を特集した。

 両誌の予想によれば、今後もマンション欠陥問題が絶えることはない。一段と気を引き締めて臨みたい。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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