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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2012年3月6日

第60回首都圏で高まる「直下型地震への不安」

 東日本大震災の発生から1年になる。

 2011年春から夏まで続いた、「電力不足」の時期を何とか乗り越えた頃には、住宅・不動産業界の混乱もひとまず収まったように見えた。

 しかし、2012年に入って、特に首都圏において、「震災への不安」が再び一気に高まった。

 (1) 東京大学地震研究所の平田直教授の研究チームが、「M7クラスの首都直下地震が、4年以内に発生する確率が70%に高まった」と発表した。なお、この70%説に対しては、否定的な見方をする専門家が多い。

 (2) 政府が、「首都直下地震の想定震度を、これまでの震度6強から震度7に見直す」と説明した。

 (3) 立川市や青梅市が、「立川断層は活断層である」との説を受けて、新年度予算に対策費を盛り込んだ。

 (4) 東京大学地震研究所の佐藤比呂志教授が、「川越から新宿に伸びる新宿断層は活断層の可能性がある」と発表した。

 いずれも、厳しいニュースばかりである。しかし、こういう時期であるからこそ、住宅・不動産業界に身を置く者としては、「耐震性」を確保した物件を、実直につくり続けるしかない。

 東日本大震災の後、マンションデベロッパーが講じた対策の中で、特に優れていると感じたのは、三菱地所レジデンスおよび三井不動産レジデンシャルの取り組みである。

 【三菱地所レジデンスの取り組み】

 「ザ・パークハウス」の災害対策基準を強化した。

 (1) 一般物件

  a 条件にあわせた構造選択(耐震構造、免震構造他)

  b 防災倉庫設置(含マンホールトイレ)

  c 非常時給水設備(直結共用水栓、飲用水浄化装置)

  d 一定の条件を満たす高層物件共用部の非常電源確保

 (2) 超高層物件

 a 免震構造や制振装置等を原則採用

 b 非常電源確保(非常発電機の稼働時間増 他)

 c エレベータの災害対応(非常電源及び長周期地震動センサー)

 d 一般用給水ポンプ非常電源確保。

 (3) 湾岸物件

  a 隣接防潮堤の高潮や津波に対する対応基本条件開示

  b 液状化への対応基本条件開示

  c 建物本体構造液状化対策 

  d 液状化発生時の外部設備配管更新対策

 (4) 面開発物件

  a 地域防災倉庫設置

 【三井不動産レジデンシャルの取り組み】

 「マンション防災基準」を強化した。

 (1) 災害発生時に居住者の生命や財産を守るための対策

 a 高さ60m超の超高層マンションに免震構造を採用

 b 超高層マンションで長周期地震動に対応

 c 非常用エレベーターには、耐震クラス「S」(最上級)を採用

 d 家具転倒防止対策の充実

 (2) 災害発生後に居住者のライフラインを確保するための対策

 a 非常用電源の確保(最低でも3日分)

 b 水の確保(飲料水1日分、共用トイレ3日分)

 c 液状化対策(ライフライン確保、バリアフリー導線確保)

 (3) 災害発生後に各居住者による共助活動を円滑にするための対策

 a サポートポスト(防災倉庫)の設置

 b 防災備品(カセットガス発電機、非常用トイレ、救助道具など)の備蓄

 c 管理会社を通じた住民の防災活動サポート

 現在は、このような取り組みが、業界全体に広がって、「マンションの耐震性」が大きく向上することを願うだけである。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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