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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2015年2月24日

第167回丸紅が探す「経年劣化」しない土地

 丸紅とモリモトが2月上旬、東京都新宿区矢来町に建設中の「グランスイート神楽坂ピアース」(全181戸)の第1期販売(50戸、平均坪単価432万円)を実施した。東京メトロ東西線神楽坂駅から徒歩3分。老舗出版社の新潮社ビルに近く、周辺は数階建て集合住宅と戸建住宅が混じり合った住宅街という好立地である。平均坪単価は約430万円といわゆる新価格になった。

 物件の取材が終わった後、不動産マーケティングのスタイルアクトが毎年行う「売主別中古マンション騰落率ランキング」2013年版で、丸紅が4年連続の1位を記録した理由を聞いた。

 これは「2001年以降に分譲された住戸の新築価格」と、「13年に売り出された当該住戸の中古価格」を比較し、得られた騰落率を売主別にまとめたもの。丸紅は新築坪単価が227万円、中古坪単価が225万円、中古騰落率はマイナス1・6㌫だった。業界平均値のマイナス10㌫と比較すると、資産価値の高さは一目瞭然である。

 丸紅・開発建設第1部の井口新一郎氏は、「経年劣化しない土地を確保できているのが最大の要因」と珍しい表現を使った。

 経年劣化しない土地とは何か。

 一 都心の駅に近い。

 二 生活利便性がある。

 三 周辺環境がよい。

 これに加えて、同社は行政が集合住宅の整備に注力している地域にも目を向けたという。「東京都中央区は定住人口を増やすため、街並み誘導型地区計画を策定し、集合住宅を建てるとき容積率を割増す施策を講じた。当社はそれに応じて供給した」。

 表を見ると、確かに日本橋人形町、明石町、日本橋、東銀座、日本橋浜町など中央区の物件が名前を連ねている。その一方では、「経年劣化する可能性がある郊外の物件は、ほとんど手がけていない」。

 「希少性の高い土地」という言葉は、ありふれていて聞き飽きた感じがする。それに対して、「経年劣化しない土地」という表現は新鮮な響きがするので、記憶に強く残る。

 考えてみると、「経年劣化」の反対語は「経年優化」。それで連想するのは、新しく生まれた街やマンションが、時間の経過とともに美しく成熟していく「経年優化」という言葉を事業理念としている、三井不動産レジデンシャルである。

 丸紅としては、「経年劣化しない土地」という言葉を、もっとPRしてもいいのかもしれない。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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