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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2016年12月6日

第231回不動産価格予測サービス「GEEO」の不可解な部分

 『週刊現代』は7月2日号に、記事1「2020年人気マンションの値段はこうなっている、全117物件の価格を実名ですべて公開」を掲載。続いて10月8日号で、記事2「全国150の有名マンション、上がるか下がるかすべて実名で公開、マンション格差に備えよ」を掲載した。

 いずれも、株式会社「おたに」の小谷祐一朗代表が開発した、不動産価格推定サービス「GEEO」を使って、マンションの将来価格を予想している。

 記事1─東京23区内の117物件のうち、4年後の2020年には36物件(30.7%)が上昇と予想。

 記事2─全国の150物件のうち、5年後の2021年には9物件(6%)が上昇と予想。そのうち、東京では23物件のうち、2物件だけが上昇と予想(8.7%)。

 2020年は東京オリンピックが開催されるので、記事1はオリンピック時点、記事2はオリンピック翌年に焦点を当てた形になっている。

 『週刊現代』10月8日号の表紙

 ここまでは何とかついて行けるのだが、記事1と記事2に共通して登場する5物件のデータを照合してみて、その不可解さに驚いてしまった。    

 「センチュリーパークタワー(東京都中央区)」

 記事1─現在1億0024万円→2020年6626万円、増減率66.1%

 記事2─現在1億0131万円→2021年8812万円、増減率87.0%

 記事1では、現在1億0024万円の住戸が、2020年には34%も下落して、6626万円になると予想している。しかし記事2では、現在1億0131万円の住戸が、2021年には13%だけ下落して、8812万円になると予想している。

 何をどのようにシミュレーションすれば、たった1年でこのような大きな差が生じるのだろうか。2020年に東京オリンピックが終わると、湾岸のマンションが一気に上昇するという、「夢のような事態」が訪れるのだろうか。しかし次のデータを見ると、その夢は真っ向から否定されている。

 「アーバンドックパークシティ豊洲(東京都江東区)」

 記事1─現在5242万円→2020年4699万円、増減率89.6%

 記事2─現在6348万円→2021年5765万円、増減率90.8%

 湾岸に建つこの物件では、2020年と翌2021年では価格の増減率にほぼ差はないという、リーズナブルな予測になっているのである。

 『週刊現代』10月8日号には、小谷祐一朗氏のコメントが掲載されている。「今回は2020年の東京五輪といった経済イベントの影響も含めて試算を行いましたが、上昇と予測されたのはわずか9物件で、多くが下落という結果が出ました。日本のマンション市況は、ここから5年後に向けて下降基調に入っていくことがまざまざと確認された形です」。

 しかし、記事1と記事2に共通して登場する5物件は、「5年後に向けて下降基調に入っていくことがまざまざと確認された」という言葉とは裏腹に、4年後までは下降基調に入っているが、5年目になると一気に上昇基調に転じていく。念のために、残り3物件のデータも紹介しておこう。

 「恵比寿ガーデンテラス壱番館(東京都目黒区)」

 記事1─現在1億1147万円→2020年8593万円、増減率77.0%

 記事2─現在9240万円→2021年8997万円、増減率97.4%

 「二子玉川ライズタワー&レジデンス(東京都世田谷区)」

 記事1─現在7687万円→2020年6003万円、増減率78.1%

 記事2─現在8394万円→2021年7674万円、増減率91.4%

 「広尾ガーデンヒルズ(東京都渋谷区)」

 記事1─現在9832万円→2020年7817万円、増減率79.5%

 記事2─現在1億3550万円→2021年1億1924万円、増減率88.0%

 記事を読んだ後、私は小谷氏に、「GEEOのアルゴリズム(メカニズム)というか、マンションの価格を、どのような仕組みで予測しているのかに、強い関心があります」として、インタビューを申し込んだ。その際には、本コラムの217回に執筆した「2020年人気マンションの値段はこうなっていてる」という、解説記事を添付した。

 小谷氏からは「インタビューをお受けします」という返事があり、日時の提示もあった。しかし、私が「ご指定の日に、ご都合のいい場所に伺います」と返答したにもかかわらず、どういうワケか小谷氏からの連絡は途絶えてしまい、インタビューは成立しなかった。

 取材を受けるといいながら、実際には逃げてしまう・・・。「GEEO」の予想結果だけではなく、小谷氏の対応もまた実に不可解である。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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