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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2015年10月20日

第191回傾いたマンション問題で一番悪いのは誰か

 三井不動産レジデンシャルが2006年に販売した、横浜市都筑区のマンション「パークシティLaLa横浜」の杭欠陥工事が、世間を騒がせる大問題になっている。

 2014年1月に、三菱地所レジデンシャルが東京都港区南青山7丁目に建設中の高級マンション「ザ・パークハウスグラン南青山高樹町」が、工事の不具合により販売中止・契約解除の事態に追い込まれたときも大問題になった。

 しかし、全国紙やテレビ各局の報道量は、南青山を1とすると、横浜はその10倍にもなろうかという勢いである。これは南青山が86戸と小規模で、かつ入居前だったため購入者への影響が比較的少なかったのに対して、横浜が705戸と大規模で、すでに2500人くらいの人が約10年近く生活を続けているので、影響が極めて大きいためである。

 私は『耐震偽装』(日本経済新聞社、2006年)の著者として、こういう事件が来ると各メディアから取材を受ける立場になる。いきなり電話をかけてきて、短くて30分、長いと1時間超もコメントしなければならないため、今回は取材を受けるか受けないかの基準を決めた。まず全国紙からの取材は受けるが、他の新聞や雑誌の取材は受けない。

 それは、全国紙の社会部の記者は要点をコンパクトに聞いてくるのでこちらも楽なのだが、他の新聞や雑誌の記者は玉石混交で、場合によってはイロハのイから説明しなければならなくて、付き合いきれないことが多いからだ。またテレビ局からの取材は、こちらがテレビ局まで出かけなければならないケースが多く、時間が取られるのですべてお断りしている。

 今回は、ある全国紙の記者がなかなか鋭い質問をしてきた。「一番悪いのは、売主の三井不動産レジデンシャル、設計・施工者の三井住友建設、杭工事担当者の旭化成建材のうち、どの会社だと思いますか」。この質問に対して皆さんはどう答えるだろうか。

 私は以下のように答えた。

 「ユーザーから見れば、一番悪いのは三井不レジです」。

 「三井不レジから見れば、施工者責任を果たさなかった三井住友建設です」。

 「三井住友建設から見れば、適正価格・適正工期で発注してくれなかった三井不レジと、手抜き工事およびデータ偽装を行った旭化成建材です」。

 「旭化成建材から見れば、横浜特有の地形を考慮するなら、杭を打つ全地点でボーリング調査をすべきだったのに、それを怠った三井住友建設です」。

 旭化成建材として、事前に支持層の深さが正確に分かっていれば、適切な長さの杭を用意できたのに、支持層の深さが間違っていたため短い杭しか用意できなかった。その結果、杭が支持層に届かなかったり、支持層に届いても打ち込み深さが不十分になってしまったので、三井住友建設に責任があるという主張になる。

 私はこの際、建築の構造に強いジャーナリストとして、デベロッパー各社にぜひ指摘しておきたいことがある。それはマンションのパンフレットの多くが、「この建物は、地下○○メートルの固い支持層まで杭を打ち込んだ、丈夫な構造です」と説明している事実である。

 この表現は明らかに間違っている。丈夫な構造という表現は、建物が固い支持層に直接支持された場合に限って使用できる。それに対して、地下杭で支持された建物の場合には、「この建物は地盤が弱いため杭で支持していますが、それでも地震時には揺れが大きくなります」と説明しなければ嘘になる。

 私はジャーナリストで研究者ではないが、それでも日本建築学会、日本地震学会、日本マンション学会という3つの学会に入っている。建築学会と地震学会、あるいは建築学会とマンション学会に入っている人は少なくないが、3つの学会に入っている人はおそらく私一人だと思う。

 その理由は、地震国の日本において、マンションに求められる第1の機能は、「地震に必ず耐える強靱さでなければならない」という信念を抱いているがゆえに、3学会を通じて最新の情報を入手したいからである。デベロッパー各社にはそういう信念があるだろうか。また一介のジャーナリストに過ぎない、私に負けないくらいの努力をしているだろうか。この機会にじっくり考えてもらいたい。

 (図は旭化成建材の杭施工実績)

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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