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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2009年5月22日

第6回 東京タワーとマンション不況の関係

 久々に東京タワーに登った。地上120メートルの高さにある展望台からは、 林立する超高層ビル、皇居を囲む緑、人工島で埋め尽くされそうな東京湾などがよく見えた。 はるか西南には富士山がそびえ立つ。いつまでも見飽きることがない光景である。

 東京タワーは2008年12月23日、開業50年を迎えた。建設時の苦労話は、『NHKプロジェクトX・挑戦者たち』 で存分に描かれ、中島みゆきの主題歌『地上の星』とともに、脳裏にしっかりと刻まれている。

 さらに、昭和三〇年代を懐古する『三丁目の夕日、東京タワー編』や、リリー・フランキー 著 『東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン~』などを通じ、世代を超えて親しみを持つ人が増えているようだ。

 このように人気の東京タワーではあるが、意外にも、マンション販売の現場では、反応がイマイチだという。

 今年春、東京タワーの南側に建設されているマンションのモデルルームを訪れた。北側の部屋からは、 ほぼ真正面に東京タワーを望むことができる。

 問「やはり東京タワー側が一番人気ですか」。

 販売担当者に聞くと、次のような言葉が返ってきた。

 答「景気がいいときだったら、投資用の購入者が多いので、眺めのいい東京タワー側から売れたと思います。 しかし、不景気になってからは、反応が変わりました。今は、実需中心の購入者が大部分なので、 日当たりのいい南側から売れています」

 ふーん、そうであったのか。さながら、「風が吹けば桶屋が儲かる」に似た話ではある。

 景気が好転して、東京タワー側が人気を回復するのは、いったい、いつになるのだろうか。 ただし、よくよく考えてみると、東京タワーには、長くは待てない事情がある。地上デジタル放送の新たな電波塔として、 墨田区押上1丁目に東京スカイツリーが建設されているからだ。高さは610メートル。カナダの「CNタワー」(高さ553メートル) を超える、世界一の電波塔である。

 東京スカイツリーの完成は2011年12月。今から1年7カ月後になる。その頃には、景気が回復していたとしても、 新しいもの好きな東京人のことだから、「東京スカイツリーの見える側を希望します」に変わっている?

<東京タワーの概要>
 所在地 港区芝公園4丁目2番8号
 高さ 333メートル
 構造形式 鉄骨造
 竣工 昭和33年
 設計 内藤多仲(構造家)、日建設計
 施工 竹中工務店


<東京スカイツリーの概要>
 所在地 墨田区押上1丁目1番2号
 高さ 610メート
 構造形式 塔体は鉄骨造、芯柱は鉄筋コンクリート造
 竣工 平成23年(2011)12月
 設計 日建設計
 デザイン監修 澄川喜一(彫刻家)、安藤忠雄(建築家)
 施工 大林組


細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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