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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2020年2月25日

第346回 集中連載⑮タワマンに「一難去ってまた一難」

 2019年10月12日の夜、台風19号の大雨により多摩川が一気に増水。その影響で多摩川を流れる水が排水管を逆流して、武蔵小杉駅周辺の低地に噴出。さらに、タワーマンションの地下に浸水して、機能不全の状態に追い込んでしまいました。

 そのタワマンの名前は、「パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー(地下3階・地上47階、総戸数643戸、2008年竣工)」です。

 浸水を許してしまった1つの原因は、「建築基準法に適切な条項がなかったこと」とされています。

 そのため国交省住宅局建築指導課は同年11月に、「建築物における電気設備の浸水対策のあり方に関する検討会」を組織。2020年3月を目途に、「電気設備の浸水対策に関するガイドライン」を作成する予定です。

 私はこの「タワマン浸水に関する集中連載」の最終回(⑮回)で、同ガイドラインの内容を紹介することにしていました。しかし、メディアの世界では、何事も予定通りに進むとは限りません。

【■■羽田空港への新飛行ルートが東京都心のタワマンに及ぼす深刻な影響】

 羽田空港の国際線を利用する「飛行機の発着数」を増やすために設定された、「新飛行ルート」の運用が2020年3月29日からスタートする予定です。

 その運用を前に、国土交通省は2020年2月2日から、民間旅客機を活用した「実機飛行確認」を開始しました。その結果、新ルートは東京都民にかなりの悪影響を及ぼすことが、明らかになりました。

 特に、タワマンを初めとする不動産に、かなりのダメージを及ぼすと思われます。それについては「集中連載⑭羽田空港への新飛行ルートが東京都心のタワマンに及ぼす深刻な影響」で詳しく説明しました。

【■■不動産のプロが考える「タワーマンションの将来性】

 それでは不動産のプロ、すなわち不動産会社の代表者、物件仕入れ担当者、営業担当者は、「タワーマンションの将来性」について、どのように考えていたのでしょうか。

 不動産担保ローンを取り扱う「SBIエステートファイナンス」が、不動産のプロ104人を対象に2019年10月上旬に回収し、11月に結果を発表した「2種類のアンケート」のエッセンスを紹介することにしましょう。

 <https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000026655.html>
 <https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000026655.html>

 まず、その日程を確認しておきます。

 10月8日──アンケート回収日(104名が回答)
 10月12日──台風19号の大雨で、武蔵小杉に立つタワマンの地下に浸水
 11月5日──「アンケート結果その1」発表
 11月19日──「アンケート結果その2」発表

 このようにアンケートは、「武蔵小杉のタワマンが浸水する」前に回収されています。よってタワマン浸水の影響は、考慮されていないことになります。

 また羽田空港新飛行ルートに関する、「実機飛行確認」が開始する前に回収されています。よって新飛行ルートに伴う騒音問題の影響も、考慮されていないことになります。

 それを前提にして、以下のアンケート結果を読み進めてください。

【■■30年経ってもタワマンの資産価値が下がらない立地条件】

 ◆設問A
  タワーマンションで仮に最寄り駅から都心までの距離が同じ物件の場合、30年後に資産価値が最も下がらないと思う立地条件を3つ選んでください。

 ◆回答A
  1位「通勤・通学に便利なターミナル駅の近く」22.1%
  2位「駅前が賑やかでショッピングモールやスーパーなどがあるエリア」20.2%
  3位「駅前の再開発が最近行われたか10年以内に再開発が予定されているエリア」15.0%

【■■タワマンの資産価値が上がる駅】

 ◆設問B
  近隣にタワーマンションが建っている駅の中で、そのマンションの価値が上がると思う駅を3つ選んでください。

 ◆回答B
  1位「中目黒」13.8%──東急東横線、田園都市線は人気沿線。日比谷線の新駅にも近い
  2位「六本木」12.2%──港区のタワーマンションは、どの時代も購入したいと考える人が多い
  3位「青山一丁目」7.1%──世界的なブランドの街である
  4位「高輪台」6.7%──駅近辺の民度が高い
  5位「池袋」6.1%──再開発による効果が出てきそうだと考えられる

 ◆追記
  価値が上がるエリアとされなかった理由としては、以下のコメントがありました。
   千葉中央、川口元郷、市川──都心から遠い
   勝どき、豊洲、辰巳──水害の恐れがある
   月島、武蔵小杉、東雲──供給過多

 ここで注目したいのは、武蔵小杉に対するコメントです。不動産のプロ達は、「エリアの価値が上がらないのは、供給過多のため」と分析していたのです。つまり、「水害の恐れがある」とは、考えていなかったことになるのです。

【■■山手線の中でタワマンの資産価値が上がる駅】

 ◆設問C
  山手線の駅の中で、今後タワーマンションが建設された場合、その価値が上がると思う駅を3つ選んでください。

 ◆回答C
  1位「高輪ゲートウェイ」11.2%、2位「渋谷」10.9%、3位「恵比寿」8.7%

【■■資産価値が落ちにくい物件の種類】

 ◆設問D
  築年数や広さが同等の場合、「一戸建て、タワーマンション、大規模マンション、中規模マンション、小規模マンション」の中では、どの物件の価値が落ちにくいと考えますか?

 ◆回答D
  1位「一戸建て」33.7%、2位「タワーマンション」22.1%、3位「大規模マンション」21.2%

 ◆タワーマンションの価値が下がらない理由としては、以下のコメントがありました。
  人気エリアに立地していることが多い。
  新規で建てることが難しく、絶対数にも限りがある。
  敷地の持分が少なくて、資産価値がある。
  購入者が日本人だけではなく、外国人にも需要があるから。
  タワマンを購入する客層はそれなりの富裕層であるため、価格が落ちにくいと考えている。

【■■羽田空港新飛行ルートに伴う騒音問題が及ぼす影響は?】
 「SBIエステートファイナンス」が、不動産のプロ104人を対象に2019年10月上旬に回収し、11月に結果を発表した「2種類のアンケート」について、ここまで詳しく説明してきました。

 しかし、2020年3月29日から羽田空港「新飛行ルート」の運用がスタートします。その結果、東京を代表するハイグレードなタワーマンションが建ち並ぶ、「新宿区、渋谷区、港区、目黒区、品川区」といったエリアで、深刻な騒音問題が発生すると思われます。

 この飛行ルートが確定した後に着工されたタワーマンションの中には、各住戸の防音性能を向上させた物件もあります。しかし、既存のそれ以外の物件は・・・。

 こういう事態に直面すると「一難去って、また一難」ということわざを思い出さざるを得ません。最初の「一難」はタワマンへの浸水、次の「一難」は新飛行ルートによる騒音を、意味しています。

 (※注)「タワマン浸水に関する集中連載」は今回(⑮)でひとまず終了です。これ以降は、通常の「特別コラム」および「斜め45度の視点」の記事として、伝えることにします。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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