リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2017年5月16日

第247回犯罪の拠点になっていた新宿区賃貸マンションの無許可民宿

 無許可民泊が犯罪の拠点に使われている実態が明らかになった。読売新聞は5月上旬、次のように報じた。

 ──国内の現金自動預け払い機(ATM)で、中国の「銀聯カード(ぎんれんカード)」の偽造カードが使われ、中国の口座から現金約32億円が不正に引き出された事件で、警視庁が逮捕した台湾籍の男らが、無許可営業の民泊を拠点に不正引き出しを繰り返していたことが分かった。同庁は、本人確認が徹底されていない無許可民泊が犯罪組織に悪用されているとみて、警戒している。

 男らが滞在していた民泊は新宿区の賃貸マンションの1室。1LDKの約38平方メートルで、民泊仲介サイトを通じて予約し、宿泊代は事前に振り込んでいた。この民泊を提供したのは、部屋の住民の外国人男性。民泊を営む際、旅館業法で義務づけられた許可を得ておらず、部屋の所有者に無断で「また貸し」していたという。

 同法の施行規則は外国人を宿泊される場合、旅券番号などを控えるよう定めているが、男性は部屋の鍵を渡す際、旅券を提示させていなかった──。

 賃貸マンションでも分譲マンションでも、住戸の所有者に管理規約を守らせることは、なんとか可能である。しかし、その住戸が第3者に貸し出された場合、その賃借人に管理規約を守らせることはかなり難しくなっていく。そして、その賃借人が住戸を勝手に民泊として提供した場合、宿泊者が犯罪の拠点に使用するのを食い止めることはもはや不可能に近い。

 今回は偽造カードの使用であったため、マンションの住民が直に被害を受けることはなかった。しかし仮にテロリストが宿泊していたら、「都市ガスを充満させて爆発させる」などの手法で、大きな被害をもたらすことも可能だったのである。

 マンションの民泊利用には、社会的にプラスの面もあるが、今回の事件のようにマイナスの面があることも否定できない。私が理解する限り、この問題に関して最も優れた研究は、平田陽子・摂南大学理工学部教授による論文、「マンションにおける民泊利用の及ぼす影響に関する研究」(日本マンション学会誌『マンション学』第57号、2017年)であると思われる。

 これは大阪市で外国人観光客をよく見かける、浪速区難波地区に存在する賃貸・分譲マンション38棟の居住者を対象に行った、アンケート調査をもとにした研究である。

 同地区では、幸町1丁目から順に、2丁目、3丁目と難波駅から遠ざかっていくが、1・2丁目では過半数のマンションで民泊利用があるが、3丁目では20%程度に止まると推定されている。

 2点の図を掲載する。まず「現在マンションで起こっている問題」である。いろいろな項目があるが、下から2番目の「事件」という項目は2%に過ぎない。

 しかし「今後マンションで起こりそうな問題」を聞くと、下から2番目の「事件」は一気に27%に跳ね上がっている。

 すなわちマンションの居住者は、「無許可民泊が犯罪の巣になるかもしれない」と、予想していたとも考えられのである。

 平田陽子教授はこう警告している。

 ──外国人旅行者、民泊経営者、マンション居住者にとって、どのような仕組みで宿を提供すればよいのかという課題が解決されないままに、民泊利用が進められてしまっている。

 何か問題が起こっても、管轄は保健所であって、もちろん捜査権はなく、警察に相談したとしても事件としては扱われないためにどうすることもできないでいる──。

 現在進行中の第193回国会では「住宅宿泊事業法案」が審議されている。仮に同法が成立したとして、犯罪行為の発生を抑えることが可能になるのだろうか。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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