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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2019年2月26日

第311回 金融庁、消費者庁、国交省が「悪質なサブリース契約」に包囲網

 2018年4月には、サブリース方式で女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営していた、スマートデイズが経営破綻した。

 シェアハウスのオーナーは、スマートデイズの「家賃を保証する」という言葉を信用して、スルガ銀行から1棟当たり1億円前後の融資を受けて住宅を建設していた。

 オーナーの立場からすると、家賃収入がゼロになってしまったのに、スルガ銀行から融資を受けた建設資金(1棟1億円前後)に関しては、約30年かけて「毎年数百万円」ずつ返却し続けなければならない。まさに「泣きっ面に蜂」という感じである。

 この問題に関連して、金融庁はスルガ銀行に対して、行政処分を行った。

 (1)2018年10月から2019年4月までの間、新規の投資用不動産融資を停止すること。

 (2)融資業務や法令等遵守に関して銀行員として備えるべき知見を身につけ、健全な企業文化を醸成するため、全ての役職員に対して研修を行うこと。

 (3)シェアハウス向け融資に関して、「金利引き下げ、返済条件見直し、金融ADR等を活用した元本の一部カット」など、個々の債務者に対して適切な対応を行う態勢を確立すること。

■■■性善説にもとづいた「サブリースのイメージ図」

 「かぼちゃの馬車」が経営破綻する直前の2018年3月27日、金融庁と消費者庁と国土交通省は、「アパート等のサブリース契約を検討されている方は 契約後のトラブルにご注意ください!」という呼びかけを行った。

<http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/caution/caution_011/pdf/caution_011_181026_0002.pdf>

 上の図は、その書類に掲載されていた「サブリースのイメージ図」である。貸主(所有者)、管理業者(サブリース業者)、借主(入居者)の3者とも、みんなニコニコ笑っている。おそらく3者ともいい人という、「性善説」にもとづいて描かれた図なのだろう。

■■■スルガ銀行を行政処分した後の「サブリースのイメージ図」

 2018年11月、すなわち「かぼちゃの馬車」を運営していたスマートデイズが経営破綻し、かつ金融庁がスルガ銀行を行政処分した後に、金融庁と消費者庁と国土交通省は、国民に注意を呼びかけた。

「アパート等のサブリース契約で特に覚えておきたいポイント例──主体性を持って契約内容やローン返済を含む事業計画を確認しましょう」。

<http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/caution/caution_011/pdf/caution_011_181130_0001.pdf>

 上の図は、その書類に掲載されていた「サブリースのイメージ図」である。

 貸主(所有者)と転借人(入居者)は描かれているが、サブリース業者(管理業者)は顔を隠してしまった。その一方で、新たに銀行が登場している。

 これはおそらく、スマートデイズの経営破綻、および金融庁のスルガ銀行に対する行政処分に焦点を当てた図なのだと思われる。しかし、こういう図で良かったのだろうか。

■■■サブリース問題の本質

 サブリース問題の本質を要約しておこう。

(1)サブリース業者が貸主(投資家)を甘い言葉で誘う。
   「あなたの土地に、アパートを建てて貸し出せば、儲かります」
   「土地をお持ちでなかったら、私どもがいい土地を紹介します」

(2)ただし、サブリース業者の収支計画書は、いい加減なものが多い。
   そのため、実際の月額賃料が相場を大きく下回るケースが多い。
  (要するに、あり得ない賃料をベースに、収支計画書をでっち上げている)

(3)サブリース業者と銀行が「つるんでいる」ケースもある。
   その典型が、スマートデイズとスルガ銀行だった。

(4)サブリース業者にアパートの建築工事を依頼すると、「ぼられて」しまう。
   最初に、新築工事で「ぼられて」しまう。
   次に、メンテナンス工事などでも「ぼられて」しまう。
   すなわち、サブリース業者は建築工事さえ請け負えば、それでいい。
   分かりやすくいうと、「後は野となれ、山となれ」。

(5)サブリース業者が月額賃料をいきなり「ダウンする」ことも多い。

  

(6)サブリース業者はブラック企業であるケースが多い。
  各企業の実態を調べたいなら、No1就職・転職企業まとめサイト「TENSHOCK」が役に立つ。
  <https://tenshock.biz/articles/2359>

■■■日経新聞の社説「サブリース問題の本質」

 サブリース問題は今後、どのように展開するのだろうか。

 国交省が設置した「賃貸住宅管理業等のあり方に関する検討会」は、2018年10月、「今後の賃貸住宅管理業のあり方に関する提言」をまとめた。
<http://www.mlit.go.jp/common/001258587.pdf>

 そこには、「投資用不動産を巡るトラブルが多発している現状に鑑み、実態を詳細に把握した上で、法制化に向けた検討を進めるべき」と明記されている。

 これを受けて日経電子版は2018年11月13日付で、「サブリース業者の実態調査へ──国交省、登録義務化も視野」と題する記事を掲載した。
 <https://www.nikkei.com/article/DGXMZO37654770S8A111C1EE8000/>

 日経新聞はさらに2019年1月10日付の社説で、「サブリース問題の根は深い」と論じた。
 <https://www.nikkei.com/article/DGKKZO39837160Q9A110C1EA1000/>

 「問題の背景には、15年の相続税増税を受けて節税対策としてアパート経営に乗り出す人が増えたことがある。13年時点で全国に820万戸ある空き家のうち、半分強は賃貸用の住宅だ。そこに新規物件が大量供給されれば、入居率が低下するのは当然だ。

 周辺の他の住宅は空室が目立つのに、自分の物件だけは大丈夫、と考える方がおかしい。賃貸住宅の管理業の適正化を進めると同時に、所有者も相応のリスクがある点を改めて認識すべきだろう」。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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