リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2009年1月20日

第2回 「マンション・オブ・ザ・イヤー」の追加条件

 リクルート社が発行する月刊誌「住宅情報 都心に住む」2月号は、「マンション・オブ・ザ・イヤー2008」の 特集号だった。4人の識者が、「総合ベスト5」「立地賞」「プラン賞」「外観デザイン賞」「ランドスケープ賞」 「共用施設賞」「特別賞」の7部門ごとに、ベストと思う分譲マンションを選出する試みである。

 4人の識者とは、「マンション評価ナビ」を主宰する大久保恭子さん、建築家でありコンサルタントでもある碓井民朗さん、 住宅コメンテーターの坂根康裕さん、そして筆者である。

 大久保さんの選出基準は明快だった。「マンション評価ナビ」では、拠点性の高さ、住環境の良さ、居住性の高さ、 デザイン性という4大項目を軸に、最終的には102項目を採点して総合点を付けている。その点数に基づいて 「総合ベスト5」を選んだという。

 碓井さんは、コンサルタントとして、マンション購入希望者をエスコートして、物件を訪れることが多い。 実際に見たマンションを、建築設計者の視点、特にプランを重視して選んでいる。

 坂根さんは仕事上、主に都心の高額物件をカバーすることが多い。選定の基準は大きく2点。 第1に、通勤・通学しやすく、暮らしやすく、利便性のよい、好環境の立地であること。 第2に、専有面積が100平方メートル以上ある広いマンションであること。気持ちよく暮らすには、 ゆとりは必須条件である、と思うからだという。

 筆者は、日経産業新聞の「目利きが斬る/住宅編」、日経ネット「リビング・スタイル」などの 連載のために、分譲、賃貸、戸建ての3種類を取材している。評価基準は立地環境、建物全体としての 居住性、住戸単位の居住性、イメージバリュー、コストバリューの5項目。 これに加えて、小規模、大規模、タワー、中低層などのバリエーションを考慮して選出した。

 「都心に住む」編集部からは、最初はひとつだけ条件が付いていた。原則として、2008年に 発行された12冊の「都心に住む」に掲載された物件に限ること。そのような観点で同誌をチェックして見ると、 2008年に販売された物件だけではなく、2007年から販売されていた物件が少なくないことを改めて実感した。 昨今の市況低迷は、物件の年度感を狂わせていたのである。

 途中で、もうひとつ条件が追加された。「経営破綻した不動産会社の物件は外すことになります」。 これは確かにその通りであろう。選出作業が終わった後、筆者が「外観デザイン賞」に決めていた物件の 分譲会社が破綻した。グッドデザイン賞の「常連」として知られていた会社だった。

 2009年の年末もまた、この追加条件を気にしなければならないのだろうか。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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