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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2020年9月15日

第360回 総務省が注目する大手不動産各社の「テレワーク活用」

 わが国では、政府の「内閣官房、総務省、厚生労働省、国土交通省、経済産業省」などが一体になって、「社員がオフィスに出勤せずに、自宅でパソコンやインターネットなどを活用して働く、テレワークの普及」に力を入れています。今回はそのうち「総務省のウェブサイト」を情報源にして、不動産各社のテレワーク活動を紹介したいと思います。

 総務省のテレワーク関連ウェブサイトは、大きく2タイプに分かれています。

 まず、総務省のウェブサイトの中にある、「新型コロナウイルス感染症対策としてテレワークの積極的な活用を呼びかけた」ページです。

URL<https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/telework/02ryutsu02_04000341.html>


 次に、総務省ウェブサイトの別働隊に相当する、テレワーク総合情報サイト「Telework Net」で、こちらは「テレワークの導入方法や活用事例」などを掲載しています。

 URL <https://telework.soumu.go.jp>


【■■大手不動産各社のテレワーク活用】

 このうち、テレワーク総合情報サイト「Telework Net」には、テレワーク活用事例を業種別に検索することができます。同サイトを「不動産」で検索すると9社がヒットしました。

 そのうち大京、東急不動産、三井不動産、三菱地所、レオパレス21という5社が、「テレワーク・デイズ」に行った活動を紹介しましょう。

 なお「テレワーク・デイズ」とは、テレワークという働き方の定着を目的として、テレワークの一斉実施を呼びかける国民運動です。2020年オリンピック東京大会の開会式に予定されていた7月24日を「テレワーク・デイ」と位置づけて、2017年7月24日から全国の各企業が一斉にテレワークを行っているそうです。

 

【■■大京(「2018年・テレワーク・デイズ」の事例)】

 大京の社員は767名ですが、グループ全体では5908名になります。そのうちテレワーク・デイズの当日には、東京・神奈川・埼玉・大阪・札幌・高松などのエリアで、273名が参加しました。

 同社は従来、業務上でモバイルワーク(車内や顧客先、カフェ、出張先などを就業場所として働くこと)を実施しています。しかし今回は、個々の社員が「在宅勤務」または「サテライトオフィス勤務(大宮、船橋、横浜の3拠点)」のいずれかを選択しました。

 ◇参加した社員の声(アンケート)

 A「自宅に近いサテライトオフィスでの仕事は身体的、時間的に負担が軽減され、ポジティブに業務に当たれることを実感した」

 B「会社ではないところで業務をすると新鮮味があり、思考が良くなると感じた」

 C「常に業務の相談ができる状態でなくなったことで、部下が自ら考えて行動する動きが見られた」

 D「子供が帰ってきたときに、『おかえり』と声を掛けることができ、話せる時間が増えた」 

 ◇評価
  仕事の効率──60%が肯定
  プライベートの充実──79%が肯定


【■■東急不動産(「2017年・テレワーク・デイズ」の事例)】

 同社は2016年度からテレワーク勤務制度を導入しています。テレワークデイズの当日には、同制度の利用者を中心に、従業員100名が参加しました。

 テレワークを実施した場所は自宅、共用のサテライトオフィス(会社指定)、訪問先・出張先などです。そして当日は、「サテライトオフィスの試験的利用、およびウェブ会議の実施サポート」を行いました。

 ◇参加した社員の声(アンケート)

 A「朝の満員電車に乗らずに済み、身体的な疲労感が軽減した」

 B「事前にテレワークを行う日程を決めておけば、それに合わせた業務スケジュールを組立て、効率的な働き方ができる」

 C「企画書の作成や関連資料の読込み等、普段時間をとることが難しい業務を、集中して行うことができた」 

◇評価(業務における生産性指標)
 通常勤務時の生産性を50とした場合、テレワーク勤務時の生産性がどのように変化したかを調査した。
 テレワーク勤務時の生産性は58(通常時と比較して16%増)。


【■■三井不動産(「2019年・テレワーク・デイズ」の事例)】
同社は不動産会社として、「多拠点型シェアオフィス──WORK STYLING」を展開しています。それゆえに、「2019年・テレワーク・デイズ」には、特別協力団体という立場で、「力を入れて」参加しています。次のデータを見てください。

 ◇テレワーク・デイズの実施時期・参加者
  7月第4週──764人
  8月第1週──707人
  8月第2週──685人
  8月第4週──532人
  8月第5週──563人
  9月第1週──479人
  合計人数───3730人

 テレワークデイズの参加対象者は、本社で勤務する約1500人です。合計人数は3730人に達したので、1500人の社員は実施期間中に平均すると2.5回、動員されたことになります。

 なお会社側(三井不動産)としては、「同社の多拠点型シェアオフィス──WORK STYLING」で業務に当たることを推奨しました。

 この「WORK STYLING」は、首都圏だけで33拠点に展開しています。それゆえに、従業員の住居からアクセスのよい場所をほぼ網羅できているため、多くの従業員が本社ではなく身近な「WORK STYLING」で就業したそうです。 

 ◇参加した社員の声(アンケート)

 A「通勤時間の短縮による効率化を実感した」
 B「身体的、精神的負担の軽減 を多くの従業員が実感した。加えて開放的な空間、普段と異なるワークスペースでの就業により、アイデア創出や生産性向上につながった」


【■■三菱地所(「2019年・テレワーク・デイズ」の事例)】 

  同社は全社員にモバイルPCとスマートフォンを配布した上で、2018年1月から全社員を対象に、「テレワーク制度」を開始しています。すなわち全社員がテレワークが可能、ということになります

 しかし、それでもなお、2019年7月24日から実施された「テレワーク・デイズ」をきっかけにして、はじめてテレワークを実施したという社員が約70名いたそうです。

 参加者は、テレワーク・デイズ(7月24日)に社員160名、他の実施日に100名程度でした。

 ◇参加した社員の声(アンケート)
  A「移動・通勤で削減した時間を別のことに充てられる」71.1%
B「集中して作業できる」54.1%
C「普段と違う環境でリフレッシュしながら業務を行える」42.4%
D「特になし(良い点はない)」6.4%
E「チャットなどツールを活用し、普段よりコミュニケーションが取りやすい」5.0%


【■■レオパレス21(「2019年・テレワーク・デイズ」の事例)】

 同社の社員は6313名ですが、そのうち2019年7月22日〜9月6日に実施されたテレワーク・デイズの当日には、在宅勤務もしくはモバイルワーク勤務という形式で「会社からテレワークが許可されている従業員1100名」が参加しました。

 ユニークなのは「7つの取り組み」を行って、テレワークの効果検証を目指したことです。

 ①障がい者のテレワーク体験── 身体障がい者の社員に自宅でテレワークを体験してもらい、オフィス出勤時と変わりなく作業できるかを確認。

 ②出社しないフルタイムテレワーク検証── これは、一定の期間出社せずにテレワークを行うことで、業務の継続性やモチベーションの変化などを確認する作業です。

 ③ふるさとワーク──単身赴任をしている社員を対象に、月1回の帰省に合わせ、帰省先(ふるさと)でのテレワークを体験してもらう。

 ④BCP(事業継続計画)対策の検証──震災発生などの有事の際に、オフィスへ出社せず働くことで「業務を中断せずに事業活動を継続できるか否か」を検証する。

 ⑤管理職テレワーク実施──管理職自身がテレワークへの理解を深めることを目指す。なお現在の管理職のテレワーク実施状況は23.8%(2019年6月)で、決して高いとはいえない。

 ⑥オフピーク出勤──通勤混雑緩和と社員の通勤ストレスの緩和、パフォーマンス向上を目指し、オフピーク出勤を促進する。

 ⑦仮想サテライトオフィス──本社の会議室を貸し切り、社員向けのサテライトオフィスとして開放。固定席を設けないフリーアドレスとし、社員同士の交流を促す。

 残念なことに、「7つの取り組み」の検証結果は公開されていないようでした。


細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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