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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2014年1月7日

第126回主張するゼネコン1「変化した力関係」

 マンション市場の2013年トップニュースが「好調な販売」だったとすると、建築市場のトップは「相次ぐ入札辞退」である。

 そのきっかけになったのが、昨年7月に行われた「武蔵野の森総合スポーツ施設」の入札不調。参加者はメインアリーナ棟が4JV、サブアリーナ・プール棟が3JVだったが、すべて辞退するという前代未聞の事態になった。この施設は2020年東京オリンピックで近代五種の競技会場として使用される。発注者は東京都、設計は日本設計、予定価格は約170億円だった。

 

 入札に先立つ昨年4月、国土交通省は労務単価を大幅にアップした。これを受けて、東京都も「武蔵野の森総合スポーツ施設」の積算に新労務単価を反映させていたにもかかわらず、全JVが辞退したため建築界を驚かせた。

 東京都は予定価格を約178億円に引き上げて、昨年10月に2回目の入札を実施し、なんとか落札者を確保できた。しかし、その内容を詳しく点検すると、実際には「さんたんたる結果」だった。

 (1)メインアリーナ棟──予定価格約106億円。

  竹中工務店JVが落札。

  大成建設JVは入札を辞退。

  清水建設JVは入札を辞退。

 (2)サブアリーナ・プール棟──予定価格約72億円。

  鹿島JVが落札。

  清水建設JVは入札を辞退。

  戸田建設JVは入札を辞退。

 このように、オリンピック施設であるにもかかわらず、多数の建設会社が、入札に応じてくれなかったのである。

 次いで昨年11月には、「豊洲新市場ショック」が建築界を大きく揺さぶった。築地市場を移転する豊洲新市場の建築工事4件の一般競争入札を行った結果、3件が辞退のため不成立になり、かろうじて1件だけが落札したのである。その内訳を見る。

 (1)青果棟ほか──予定価格約160億円。

   鹿島JVが入札を辞退。

 (2)水産仲卸売場棟ほか──予定価格約260億円。

   清水建設JVが入札を辞退。

 (3)水産卸売場棟ほか──予定価格約208億円。

   大成建設JVが入札を辞退。

 (4)管理施設棟ほか──予定価格約70億円。

   関東建設工業JVが落札。

   フジタJVは入札を辞退。

 建設会社が入札に応じたけれど、入札金額が予定価格を上回ったため入札が不成立、というのならある意味では仕方がない。しかし、建設会社は入札に応じてくれない。その理由は、入札金額を見積もる作業に、経費がかかるため。換言すると、彼らにもゆとりがないのである。新市場は東京五輪施設が集中する湾岸エリア大改造の目玉プロジェクトの1つだが、極めて異例の事態になった。

 バブルがはじけて以降、発注者と建設会社の力関係は、発注者にとって有利なまま推移してきた。しかし、東日本大震災が発生して以降、人手不足のため建築費が上昇したことに伴って、両者の力関係が変わりつつある。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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