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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2010年3月23日

第16回 分譲マンションと「希望小売価格」

 マンションを建設して販売する会社は、普通、「マンションデベロッパー」あるいは「マンションメーカー」と呼ばれる。デベロッパーだと土地を開発する業者、メーカーだと商品としての住宅を建設する業者、という意味合いが強くなる。

 最近、分譲マンションの価格の決め方が、いかにもメーカー的になってきた、と感じる機会が増えてきた。

 メーカーが製造し販売する家電やカメラなどの製品には以前、「定価」が付けられて、どの小売店でも同じ価格で販売されていた。その後、定価に代わって、メーカーが設定した価格であることを意味する「希望小売価格」「参考価格」という言葉が登場し、小売店ごとに価格が異なる時代が訪れた。

 さらにパソコン、家電、カメラなどを中心に、メーカーが希望小売価格を決めない「オープン価格」に移行する商品が増加。小売店の店頭では、実際の販売価格(売価)だけが表示されるようになっている。

 分譲マンションの分野でも、これと似たような現象が起こっている。

 かつて、マンションブームが続いていた頃だと、分譲マンションのモデルルームがオープンするときには、「予定価格」が決まっていて、それがそのまま「販売価格」になるケースが大部分だった。つまり、マンション各社が主導して「定価」を決めていた。

 しかし、2008年に不動産不況に陥って以降、「予定価格」が決まらないまま、分譲マンションのモデルルームがオープンするケースが増えている。予定価格が決まるのは、モデルルームを訪れたユーザーの反応を調べて、マンション各社が「これなら行ける」という見込みを持ってからになる。すなわち、ある意味では「希望小売価格」に移行したようなものだ。

 そして、第一期販売を実施して、売れ行きが見込み通りにならないと、価格を調整して第二期販売に臨むケースも少なくない。これは、まさしく「オープン価格」に似たやり方になる。

 この方式は、マンション各社にとっては、柔軟性に富んだ便利な方法であることは間違いない。しかし、ユーザーからすると、不満の残る方法であることも否定できない。

 せっかくモデルルームに出かけたのに、「しばらくの間、価格が分かりません」と言われるのでは、餌を前にした犬が「おあずけ」と言われている状態に近い。インターネットのマンション掲示板を見ると、「価格はいつ決まるのだろう」「価格を早く知りたい」という書き込みが多いのは、ユーザーが「おあずけ」状態を不満に思っているからではないのか。

 現在は、いわば過渡期であり、やむを得ない面があることは理解できる。しかし、ユーザーの不満が強まるようであれば、「おあずけ」状態を強いる方法は改める必要がある。

 さて、世間では、「マンションデベロッパー」と「マンションメーカー」のいずれが一般的なのだろう。GoogleとYAHOO!を使って確認した。

 Googleで「マンションメーカー」という言葉を検索すると、約2000万件の情報が得られるのに対して、「マンションデベロッパー」だと約70万件の情報しか得られない。すなわち、マンションメーカーの圧勝である。しかし、YAHOO!だと、マンションメーカー約4万件、マンションデベロッパーは約40万件と、逆にマンションデベロッパーの圧勝となる。

 GoogleとYAHOO!では、なぜ正反対の結果になるのだろう。理由はまったく分からない。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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