リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2011年12月6日

第51回モデルルーム担当者の「肩書き」

 記事を書くとき、絶対に間違ってはならないことのひとつに、取材相手の名前と肩書きがある。したがって、記事を書き終わったときには、相手の名刺を再度取り出して、念のためにもう一度確認する。

 それほどまでに注意して提出した、モデルルーム担当者の肩書きが、新聞社の担当デスクに「これでは何のことか分かりません」と指摘され、書き換えを迫られた「小さな事件」があった。筆者にとって初めての経験である。

 「事件の主役」は、三井不動産レジデンシャルで、「パークコート六本木ヒルトップ」の販売を担当するAさんの「名刺」だった。名刺には、こう記してある。

  

 三井グランディオーソ・クラブ 副所長 ○○△△

 三井グランディオーソ・クラブとは、パークコート六本木ヒルトップの販売を推進するための会員制組織である。したがって、原稿には名刺通りに「三井グランディオーソ・クラブ副所長の○○△△氏」と書いた。

 しかし、これに新聞社の担当デスクが異議を唱えた。

 担当デスク「三井グランディオーソ・クラブとは何ですか?」

 筆者「このマンションの販売を推進するための会員制組織です。モデルルームとは異なります」

 担当デスク「読者には、分かりにくいですね?」

 筆者「詳しく書くと、販売を推進するための会員制組織、三井グランディオーソ・クラブ副所長の○○△△氏、になります」

 担当デスク「これだと、長過ぎて字数オーバーです。何か言い換えられませんか?」

 筆者「三井不動産レジデンシャルでは、モデルルームを、普通はレジデンシャルサロンと呼んでいます。ただ、勝手に、レジデンシャルサロンとする訳にもいきません」

 担当デスク「他にいい案はありませんか?」

 筆者「短く書くなら、販売担当者です。ただし、それだと、モデルルームの所長と誤解される可能性があります」

 担当デスク「モデルルーム副所長では?」

 筆者「しかし、三井グランディオーソ・クラブは厳密にいうとモデルルームではないので、モデルルーム副所長と書くのは無理があります」

 担当デスク「それもそうですね」

 こんな感じの、「コンニャク問答」にも似たやりとりがあって、最終的には、次の表記に落ち着いた。

 モデルルームの○○△△氏

 一般の人にとって、一番馴染みがあるのは、モデルルームという表記であるに違いないからだ。

 今回の「小さな事件」が気になって、これまでに取材でもらった営業担当者の名刺を整理してみた。すると、おおむね、4タイプに分類できた。

 【会社組織タイプ】

 営業部など会社組織上の名称をそのまま使う。肩書きは、部長、課長、主任など。

 【伝統的タイプ】

 販売センターという名称を使う。肩書きは所長、副所長、またはマネージャー、チーフ、リーダーなど。

 【カタカナタイプ】

 マンションギャラリー、インフォメーションサロン、ゲストサロンなどカタカナ名を使う。肩書きは所長、副所長、またはマネージャー、チーフ、リーダーなど。

 【新タイプ】

 三井グランディオーソ・クラブなど。肩書きは所長、副所長など。

 このように比較してみると、三井グランディオーソ・クラブという名称は新タイプであるがゆえに、確かに分かりにくい面がある。

 意外だったのは、最近の名刺にはモデルルームという表記が、ほとんど見当たらないこと。それでも、取材に際しては、こちらが「モデルルームをお訪ねします」と言い、相手が「モデルルームでお待ちします」と答えるわけだから、不思議なものである。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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