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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2018年1月16日

第270回「マンションの平均価格・平均面積」と「酔っ払いフラフラ歩き」の意外な類似性

 「新築分譲マンションの平均価格と平均面積の推移──東京圏」と題する、1枚の図表を見てずいぶん驚いた。全体としての印象が、酔っ払いがフラフラしながら歩く、いわゆる"千鳥足"に似ているのである。

 図表の縦軸は平均価格(万円)で、横軸は平均面積(専有面積、平方メートル)。また■印や□印は1980年から2016年までの各年の実績値である。

 この図表は、不動産アナリストとして知られる、みずほ証券・市場情報戦略部・上級研究員の石澤卓志氏が執筆した論文、「不動産市場の最新動向と今後の有望分野」(『土地総合研究、2017年冬号』)から引用した。

 なお同論文は、長谷工総合研究所が発行するマンション専門誌『CRI、466号』に掲載された、「首都圏・近畿圏マンション市場動向」を参考にしたものだ。

 それにしても、平均価格と平均面積の関係が、どうしてこんなに「フラフラした曲線」になるのだろう。この曲線をじーっと眺めていると、その仕組みが少しずつ分かってくる。

 まず基本になるのは「好景気時のパターン」と「不景気時のパターン」である。

 好景気時には上図のように、「分譲マンションの販売価格が上がり、専有面積も増える」。これは直感的に理解しやすい。例えば1984年~1986年、2012年~2014年などがそうだった。

 一方、不景気時には上図のように、「価格が下がり、面積も減る」。これも直感的に理解しやすい。最近でいうと、リーマンショックの影響を受けた、2007年から2009年などがそうだった。

 ところが、1986年12月~1991年2月までの「バブル景気」の時代、そして1991年3月~1993年10月までの「バブル崩壊」の時代を振り返ると、通常とは違った「異常なパターン」が観察される。

 まず「バブル全盛期直前のパターン」である。この時期には上図のように、「価格は上がるのに、面積が減る」という、異常な現象が観察された。

 これは、バブルの気配を嗅ぎ付けて「土地が急激に高騰し始めた」にもかかわらず、それを「マンション価格にそのまま反映させにくい雰囲気があったため、代わりに面積を減らした」結果である。それゆえに、1986年~1987年には平均価格が1540万円も高騰したのに、平均面積が約5平方メートルほど減少するという、おかしな事態が発生した。

 次に「バブル全盛期のパターン」である。この時期には上図のように、「価格だけが、一気に上がる」という、昇り龍に似た現象が観察された。実際問題として、1987年~1991年には価格が一気に2420万円も高騰したにもかかわらず、平均面積は年によって少し増えたり減ったりした結果、差し引きではわずか約3平方メートルしか増えていない。

 そして「バブル崩壊期のパターン」である。この時期には上図のように、「価格だけが、一気に下がる」という、降り龍にも似た現象が観察された。そのため1991年~1993年には、面積がほぼ変わらないのに、価格が一気に3400万円も暴落するという、眼も当てられない事態になった。

 続いて「バブル崩壊期直後のパターン」である。バブル崩壊期が終わったばかりで、まだ経済に勢いがない「暗い時期」だったため、上図のように「価格は下がるのに、面積が増える」という異常な現象が観察された。

 背景には、バブルの終焉を実感して「土地が急激に暴落し始めた」のを受けて、「専有面積を増やすことが可能になった」けれども、その一方では「マンション価格を抑えなければ売れない」という事情があった。

 それゆえに1993年~1995年には、価格が760万円も下落したのに、面積が約7平方メートルも増加するという異常な現象が観察された。

 好景気・不景気を巡る2パターン、およびバブルを巡る4パターンに続いて、「不思議な右矢印」「不思議な左矢印」という2パターンについて説明したい。

 まず「不思議な右矢印パターン」とは、上図のように「価格が変わらないのに、面積が増える」という、不思議な現象である。

 これは、景気が比較的いい時代に設計され、「面積を増やし」かつ「価格もアップする」計画だったのに、プロジェクトが進行する途中で景気が落ち込んだため、「価格をアップできなかった」ゆえの結果である。

 例えば2000年~2002年には、価格がほぼ横ばいだったにもかかわらず、面積が約3平方メートルほど増えている。

 次に「不思議な左矢印パターン」とは、上図のように「価格が変わらないのに、面積が減ってしまう」という、ユーザーにとっては迷惑なタイプである。

 これは、景気が比較的悪い時代に設計され、「価格をダウンし」かつ「面積も減らす」計画だったのに、プロジェクトの途中で景気が良くなったため、「価格をダウンしなかった」ゆえの結果である。

 例えば2002年~2003年には、価格がほぼ横ばいだったにもかかわらず、面積は5平方メートルも減っている。

 最後に、新築分譲マンションの「価格と面積」に関する、8つのパターンをまとめて置こう。

 このうち上図に青色で示した「4つの矢印」は、「好景気~景気」という、通常の景気循環に伴って観察される一般的なパターンである。一方、赤色で示した「4つの矢印」は、「バブルの発生~崩壊」という、激しい景気変動の時期に観察される特殊なパターンである。

 このように、「一般的なパターン」の中に、時々「特殊なパターン」が混じるために、全体として酔っ払いのフラフラ歩き(千鳥足)を連想させたのだと思われる。

 2018年の「新築分譲マンションの平均価格と平均面積」は、はたしてどのようなパターンになるのだろうか?

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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