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2015年5月12日

第174回マンション74棟が巻き込まれて耐震偽装事件の「悪夢再来」

 2005年末に発覚した「耐震偽装事件」のとき、事件に巻き込まれたマンションは数十棟程度だった。しかし、今年3月13日に発覚した東洋ゴム工業による免震装置の性能偽装事件で、事件に巻き込まれたマンションが74棟に達することが分かったため、「悪夢再来」としてマンション各社を動揺させている。

 「第1グループ─3月13日に公表」。

 東洋ゴムの免震装置を採用していた建物のうち、大臣認定不適合の建物は55棟で、そのうち共同住宅は25棟だった。同社は免震装置をすべて交換すると発表している。

 「第2グループ──4月21日に公表」。

 新たに不適合と判明した建物は90棟で、そのうち共同住宅は49棟だった。同社は不適合と判断された免震装置だけを交換すると発表しているが、いずれ免震装置をすべて交換する方向に追い込まれると予想される。

 不適合とされた74棟の共同住宅に関しては詳細が公表されていないため、そのうち分譲マンションが何棟を占めるのかは分からない。ただ免震構造を採用した共同住宅は工費がかかるため、民間のマンション会社が販売した高級分譲マンションが主体になると予想される。

 免震装置が大臣認定不適合と判断されると、建築基準法第37条(建築材料の品質)に違反し、自動的に建築基準法第6条(建築申請・建築確認)にも違反する。すなわち、建築確認が下りないのだから、建物の存在は「法律的に許されない」ことになる。よって、マンション会社として、「法律的に許されない物件」を販売した責任を取るために、免震装置の交換工事を主導する義務を負っている。

 交換工事の第1の難関は、「免震装置が供給されるまでの期間」である。74棟のマンションには、合わせて2730台の免震装置が使われている。しかし免震装置の製作には時間がかかるため、東洋ゴムだけでは対応しきれない。そのため競合メーカーで製造能力に優れたブリヂストンにも製作を依頼しているが、全ての製品を納入するまでに最長では数年かかるという見通しもある。

 第2の難関は「施工者の確保」である。免震装置を交換する際には、「免震装置の搬入と搬出」、「交換ルートの確保」、「ジャッキアップ工事」、「工事中の地震対策」などが課題になる。このうち「ジャッキアップ工事」は難工事であり、専門業者を奪い合うような状態になると予想される。

 第3の難関は「入居者の一時退去」である。交換工事の期間は最低でも数カ月単位になるのに加えて、ジャッキアップ工事の最中は建物が不安定になるため、入居者は一時退去を迫られる。ただ数カ月もの期間、一時退去しなければならないとなると、高齢者世帯や通学する子供がいる世帯では、耐えられない場合がある。この場合、マンションを販売した会社に、住戸を買い取ってもらいたいと主張する住民が出てくる可能性がある。

 交換工事に必要な直接費用は東洋ゴム工業が負担しなければならないし、同社にはそれに耐える資金力もある。ただし、工事中のマンションに関しては「工期の遅れ、入居者への引き渡しの遅れなどに伴う間接費用」、すでに入居済みのマンションに関しては「工事期間中の一時退去に伴う間接費用」について調整が難航する可能性が強い。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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