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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2017年10月17日

第262回「プレミスト湘南辻堂」の記者内覧会で360度回転シアターを鑑賞しなかった理由

 最近開催された記者発表の中では、湘南エリア最大規模のマンションとされる、「プレミスト湘南辻堂」のモデルルーム記者内覧会が最も強く記憶に残った。事業主は大和ハウス工業、神奈川中央交通、長谷工コーポレーションの3社である。

 敷地はNTT社宅の跡地で、大きくアクア街区(14階建、404戸)とフォレスト街区(13階建、510戸)に分かれ、最寄りの東海道線「辻堂駅」からは徒歩9分の距離にある。

 徒歩9分なら普段はもちろん歩いて行く。しかし、当日はものすごく暑かった。さらに、主催者は天候を見越したかのように、辻堂駅前からマンション敷地内にあるモデルルームまで、直行シャトルバスを用意していた。

 後で分かったことだが、このマンションが完成すれば、辻堂駅前からプレミスト湘南辻堂まで専用のシャトルバスが運行される予定という。そのイメージイラストを添付した(画像データは記者内覧会の案内図から引用)。

 記者内覧会当日は、普通に使われているシャトルバスだったが、乗り心地は良かった。猛暑の日、雨天の日、疲れた日などは、マンション専用のシャトルバスがあれば、確かに便利に違いない。

 取材していて分かったことだが、プレミスト湘南辻堂の事業主は当初、大和ハウスと長谷工の2社だった。けれども、地元へのアピール力、および専用シャトルバスの運営という2点を理由に、途中で神奈川中央交通にも参加してもらったそうだ。

 後日、神奈川中央交通のウェブサイトを調べると、次のように記してあった。

 「児童・生徒の通学、企業の従業員輸送、ゴルフ場や病院への利用者送迎などのために、現在100両を超える特定バスを使って輸送にあたっております」

 「特定バスは、自家用バスが抱える万が一の交通事故の処理、運転士の労務管理、車両の整備・点検などの煩わしい問題を解消できます。また運行日数、運行時刻、運行ルートの設定が自由にできるなど様々なメリットがあり、多くの学校、企業および福祉施設から注目されています」

 「特長としては──経験豊富な運転士、安全走行を支える整備体制、すべての手配業務に対応、自由なカラーリング、駐車場も不要、心地よい接客サービス、万が一の事故にも万全な対応、トータルコストダウンを実現・・・」

 「餅は餅屋」というが、確かにこれなら、マンション管理組合としても安心かもしれない。

 さて、プレミスト湘南辻堂の最大の売りは、まずカフェラウンジ、アリーナ、ライブラリーなど16種類もの共用施設を備えていることである。16種類というのは、今まで前例がない数かもしれない。

 次に、音楽イベント、陶芸教室、サーフィン教室など10種類以上ものイベントを開催すること。

 共用施設について主催者から説明を受けているとき、参加者の1人から、「その費用は誰が負担するのですか?」という趣旨の質問があった。その回答はいうまでもなく、「各住戸の所有者が毎月支払う、管理費および修繕積立金でまかなわれます」となる。

 この種の記者発表の参加者は大きく2タイプに分かれる。マンションに詳しい専門家(専門紙の記者、専門誌や専門ウェブメディアのライター、フリーのジャーナリスト、フリーの評論家)、およびマンションに詳しくない記者(一般紙やテレビ局の記者)である。

 先ほどの質問者は、一般紙の経済部あるいは生活情報部の記者で、どうやらマンションに関しては素人同然に近いようだ。

 説明が各種イベントに移ったとき、同じ記者が「イベントは誰が企画を立て、運営するのですか?」「その費用は誰が負担するのですか?」と質問した。その回答はいうまでもなく、「マンション管理組合の依頼を受けて、マンション管理会社のスタッフが企画を立てたり、運営したりします。その費用は管理費でまかなわれます」

 こういう感じのやり取りに時間が費やされたため、質問する時間がなくなって、何か物足りない感じが残った。

 そういう中で参加者が沸いたのは、「簡易体力測定で、身体を楽しく動かす、先端のウェルネスサービス」について説明を受けているときだった。これは、(1)測定用のタグを身につけて、(2)6種類の簡単な運動をして体力を測定し、(3)その結果にもとづいて個別にトレーニングメニューを作成してもらう、というサービスになる。

 記者内覧会では、このうち(2)「6種類の簡単な運動をして体力を測定」を実施。参加者は「自分は△点だった」などと結果を見せあってずいぶん盛り上がった。ちなみに、筆者は6名からなる小グループの中で、他の1名とともに同点1位になった(エヘン、オホン──自慢のせきばらい)。

 さて、当日の最大の目玉とされたのは、「日本で初めて座席が360度回転するシアター」での映像鑑賞だった。参加者全員がシアターに入り、座席にすわって、シートベルトを締めた。

 「360度回転というけれど、どう回転するのだろう?」、「回転は平面の方向で、まさか上下の方向ではないだろうな?」などと考えながら、少しドキドキしながら待っていた。しかし、いつまで経っても、座席はビクとも動かないのである。「どうして動かないの?」。

 しばらくすると、シアターに係の人が入ってきて、ペコリと頭をさげてから説明した。「誠に申し訳ありませんが、システムがうまく動きません。実はお客さんに座っていただいて、稼働させるのは今回が初めてです。原因が分かるまでの間、別のコーナーを見学していただくようにお願いします・・・」。

 その言葉に従って、別のコーナーを見学しているうちに、段々に内覧会の残り時間が少なくなってきた。そして最後には、「360度回転シアターを鑑賞するか」、「マンション全体模型を眺めるか」のいずれかを選択しなければならない状態に追い込まれた。

 結果的には、私1人だけが「マンション全体模型」を選択し、残りの参加者は「360度回転シアター」を選択した。記事の冒頭に、「最近開催された記者発表の中では、プレミスト湘南辻堂がもっとも強く記憶に残った」と記したのは、こういうハプニングに遭遇した結果である。

 ところで、私はなぜ「マンション全体模型」を選択したのか。その理由は、全体模型を眺めながら、人の動線や車の動線などを丁寧に確認していかないと、マンション内の生活が見えてこないためである。

 当日配布された資料には配置図が含まれていたが、残念ながら描写がラフすぎるのに加えて、どこにも縮尺が描いてない。そういう配置図では、肝心の寸法が分からないし、空間のつながりも分からないため、「エントランスを入って、ホールを進み、エレベーターに乗って、居住階でエレベーターを降り、共用廊下を歩いて、住戸の玄関を開ける」という、一連の動きをリアルに把握することは難しい。

 つまり、どうしても、時間をかけて「マンション全体模型」を眺めなければならない。

 

 これに対して、仮に「シアター」を鑑賞したとしても、その内容は立地と共用空間のビジュアルな説明に終始することが多く、内容はほぼカタログと重複している。そして、プレミスト湘南辻堂に関しては、すでに充実した内容のカタログが配布されているので、シアターを見る必要はないのである。

 筆者がマンションを単独で取材する場合、通常は次のような段取りを組む。

 (1)あらかじめカタログと図面集を送付してもらう。

 (2)事前にきちんと読み込んで質問事項をメモしておく。

 (3)取材当日は、初めにモデルルームと建物模型を見せてもらう。

 (4)次に、担当者にインタビューを行って、終了。

  すなわち、双方の時間を節約するために、シアターはパスしている。ただし、一般の人にとっては、カタログを見るよりは、シアターで鑑賞した方が理解しやすいかもしれないことを、付記しておく。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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