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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2015年7月14日

第181回雑誌「Wedge」のタワーマンション狂騒曲

 東海道新幹線のグリーン席には情報誌「Wedge」と旅行誌「ひととき」が置いてある。このため新幹線雑誌のイメージが強かった「Wedge」7月号が電車の中釣り広告で、特集「タワーマンション狂騒曲の裏側」をにぎやかに宣伝していた。

 トップを飾るのは「住みづらさ増すタワーマンション」という記事。

 「都心のタワーマンションを中国人の富裕層が購入している。購入するのは新宿、池袋、六本木、赤坂、渋谷に加えて、オリンピックが開かれる湾岸などだ」

 「彼らはゲストルームを予約できるだけ予約し、これをホテルとして再販売している。また自分の住戸もホテル化し一日単位で貸し出している」

 「管理組合がこれを止めさせようとしても、区分所有者の4分の3以上の同意が壁になって、管理規約をなかなか改正することができない」

 「大手デベロッパーは最近、外国人による購入を3割以内に制限する自主規制を行っている」

 記事の筆者は住宅ジャーナリストの榊淳司氏。街のウワサによると、榊氏の記事はもっと過激だったが、Wedgeの編集者が手を入れて上品に仕上げたのだという。

 日本は今、お隣りの中国や韓国とのつき合い方に大苦労している。その隣人問題が東京都心のタワーマンションにも波及してきた形である。

 ここでハタと気づいたことがある。マンションの隣人問題といえば、国交省マンション政策室が5年に1回の割合でまとめる「マンション総合調査」が標準的なデータになっているはずである。そこで最も新しい「平成25年度マンション総合調査結果」をパラパラとめくってみると、分かりやすい表があった。

 この表には「ホテル化」問題などはどこにも掲載されていない。念のために調査結果全体を隅々まで調べたが、やはりどこにも掲載されていなかった。

 国交省は2001年に運輸省、建設省、北海道開発庁、国土庁の4省庁を統合して誕生した。そのうち旧運輸省系統の外局である海上保安庁は、日本固有の領土である尖閣諸島を守るため巡視船を出して命がけの苦労をしている。

 それに対して旧建設省系統の組織である国交省マンション政策室は、中国人によるマンションのホテル化問題が深刻化している事実を、今回の「Wedge」の特集で初めて知りえたと思われる。しかも次のマンション総合調査が発表されるのは、おそらく平成31年4月のこと。われらが旧建設省は誠にのんきである。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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