英国の有力経済紙フィナンシャル・タイムズが、「デザイン系ウェブマガジンとして世界でベストワン」と評価したサイトをご存知だろうか。ギリシャの『Yatzer』である。

　「ウェブマガジン」とは、雑誌スタイルを取るウェブサイトのこと。「デザイン系ウェブマガジン」とは、デザイン、インテリア、建築、アート、ファッションなどの部門を持つサイトで、ビジュアルな写真が充実している特徴がある。

　『Yatzer』には、13の部門があり、各部門ともおおむね週に1件のペースで、世界各国の質の高い作品を紹介し続けている。

　例えば、建築部門──。海外勢の作品に混じって、中村安奈氏＋神野太陽氏（イースタン建築設計事務所）の「死を待つ家」、井手孝太郎氏（アールテクニック一級建築士事務所）の「シェルレジデンス」、山下保博氏（アトリエ天工人）の「チカニウマルコウブツ（地下に埋まる鉱物）」など、日本人建築家による住宅も掲載されている。

　この『Yatzer』と並んで評価が高いのは、各種建築のトップ10ランキングで知られる英国の『dezeen』である。『dezeen』には、建築やインテリアそして家具など10の部門しかないが、そのうち建築部門には、おおむね毎日1件のペースで作品が紹介されているので、情報量が充実している。

　ちなみに、2010年10月に発表された「キャンチレバー（片持ち梁）を持つ建築トップ10ランキング」には、中村安奈氏＋神野太陽氏（イースタン建築設計事務所）の「山と開口」が、8位にランクされている。兵庫県宝塚市の斜面地に立つ、住宅とデザインルームとの複合建築「山と開口」である。8メートルもある敷地の高低差を利用して、片持ち梁状に大きく突き出たデザインルームが、圧倒的な迫力を生んでいる。

　他に、チリの『archdaily』も必見だ。こちらは、掲載される建築が、最近では1日に10件を超えることもあり、すさまじいパワーを感じさせる。そして、日本人建築家の作品も多数掲載されているのだが、惜しいことに、2011年2月に2008年の作品が掲載されるなど、新旧の作品が入り混じっているため、新しい情報を得にくいという欠点もある。

　かつて、建築家やインテリアデザイナーは、作品をまず東京の出版社が発行する建築・住宅専門誌に発表。それがきっかけになって、自分の名前が国内に広まり、さらには世界に知られていった。

　しかし、2000年以降になって、インターネット時代が到来。雑誌に替わってデザイン系ウェブマガジンが力をつけてきたため、作品発表の場もウェブに移行しつつある。

　筆者が、デザイン系ウェブマガジンに挑戦してほしいと思うのが、分譲マンションのインテリア、それもモデルルームである。特に、ハイグレードなマンションにおいて、トップクラスのインテリアデザイナーが腕を振るった、広さが100平方メートルを超えるモデルルームの場合には、『Yatzer』『dezeen』の掲載基準に達する優れた作品も少なくはない。

　マンションの販売が終了すると、モデルルームは解体され跡形も残らないのだが、それではもったいない。せっかくの作品を記録に残す意味でも、挑戦するデザイナーは現れないものだろうか。

　【デザイン系ウェブマガジンのURL】

　『Yatzer』　http://www.yatzer.com/

　『dezeen』　http://www.dezeen.com/

　『dezeen日本語版』　http://www.design-channel.jp/

　「キャンチレバーを持つ建築トップ10ランキング」

　http://www.dezeen.com/2010/10/31/dezeens-top-ten-cantilevers/

　『archdaily』

　http://www.archdaily.com/