リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2019年8月27日

第323回 国交省が「歩きたくなるまちなか」をコンセプトに都市再生(後編)

 国土交通省・都市局まちづくり推進課は先頃、「居心地が良く歩きたくなるまちなか」をコンセプトにした都市再生を目指す方針を明らかにした。

 記事の後編では、主に首都・東京の課題に的を絞ることにしよう(以下に添付した資料は、すべて国交省「報道発表資料」から引用)。

 <https://www.mlit.go.jp/report/press/toshi05_hh_000249.html>

■■■東京は「世界の都市総合力ランキング」で第3位


 森記念財団が作成した「世界の都市総合力ランキング2018」によれば、東京はロンドン、ニューヨークに続く3位に位置している(グラフでは太い青色の線)。しかしここ何年間か、上位2都市との差は縮まっていない。

 

■■■アジア諸都市に追い上げられている東京


 同じく森記念財団の「世界の都市総合力ランキング2018」によれば、1位の「ロンドン」はヨーロッパ都市の中で突出し、「ヨーロッパ都市の種」になっている。また2位の「ニューヨーク」は北米都市の中で突出し、「北米都市の種」になっている。

 しかしながら3位の「東京」は、アジア都市のなかでトップではあるが、「極」として突出するまでには至っていない。 それどころか、シンガポール(5位)、ソウル(7位)、香港(9位)などアジアのライバル都市の追い上げは加速し、その差は縮まってきている。

 その原因は、アジア都市全体の都市力が向上していること、および東京の「弱み」を強みとする都市の存在(シンガポール、香港など) がある。

 東京の「弱み」とは、GDP成長率の低さ、優秀な人材確保が容易ではないこと、スタートアップ環境が整っていないこと、歴史・伝統への接触機会が少ないこと、外国人居住者数のが少ないことなどにある。

■■■東京の偏差値を測定する


 この図表は、森記念財団の「世界の都市総合力ランキング2018」が分析した「東京の偏差値」である。

 試験で平均点をとった人の偏差値はちょうど50になる。平均よりも高い点であるほど、その人の偏差値は55、60、65、70と高くなっていく。一方、平均よりも低い点であるほど、その人の偏差値は45、40、35、30と低くなっていく。

 東京は、「市場の経済規模(偏差値76)」「交通インフラ(偏差値67)」などが高く評価されている。

 しかしその一方、「ビジネスの容易性(偏差値49)」「 市場の魅力(偏差値46)」「居住コスト(偏差値44)」「エコロジー(偏差値43)」などが『弱み』とされる傾向がある。

■■■急速に拡大する国内ベンチャー企業への「投資」


 次に、東京の最近の「特徴」をピックアップしておこう。上図に示すように、他国の大都市に比べると、スタートアップ企業数は1241と極めて少ない(右側)。その一方では、国内ベンチャー企業への「投資金額」と「投資件数」は急速に拡大している(左側)。

 なおスタートアップ企業とは、金融情報サイトの金融経済用語集によれば、「新しいビジネスモデルで急成長を目指す、市場開拓フェーズにあるベンチャー企業」のことをいう。一方、ベンチャー企業とは、「創業まもない新興企業」を意味する。

■■■スタートアップ企業は局所的に高密度で集積


 上図は「東京のスタートアップ企業の偏在状況と集積要因」である。スタートアップ企業は、鉄道沿線の利便性の高い場所を中心に、局所的に高密度で集積している。また再開発エリアに加えて、賃料が安い中小ビルエリアに集積する動きもある。

■■■「コワーキング・オフィス」が急激に増加


 この図は東京における「サービス・オフィス」(青色)と、「コワーキング・オフィス」(赤色)の新規床面積である。

 サービス・オフィスとは、「オフィス空間」に加えて、ビジネスに必要なオフィス備品、インターネット回線、会議室、商談スペース、秘書サービスなどを整えているタイプをいう。

 これに対して「コワーキング・オフィス(Coworking Office)とは、事務所スペース、会議室、打ち合わせスペースなどを共有しながら、独立した仕事を行う共働ワークスタイルを指す。一般的なオフィス環境とは異なり、コワーキングを行う人々は同じ組織には雇われていないケースが多い。

 就業者の多様化、「働き方改革」の取組などを受けて、2017年以降、コワーキングスペースが一気に急増しているのが分かる。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


BackNumber


Copyright (c) 2009 MERCURY Inc.All rights reserved.