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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2011年9月20日

第44回東京スカイツリーと東京タワーの物語

 東京スカイツリーの高さが300mを超えたのは2010年2月16日。この頃から、取材のためにマンションのモデルルームを訪れると、富士山、東京タワーに並んで、東京スカイツリーが見えるかどうかが、話題になるケースが増えていた。

 2011年3月11日、マグニチュード9の巨大な地震が東日本を襲った。その日、東京タワーでは、最頂部のアンテナ支柱がわずかに曲がったものの、そこで耐えた。数日後には、補強工事を実施。さらに、地震から1ヵ月後の4月11日。展望台に「がんばろうニッポン」という光のメッセージを掲げた。

 一方、東京スカイツリーの頂部では、アンテナ用鉄塔の工事が行われている最中だった。地震動が伝わると、鉄塔は多くの作業員とともに、ゆっくり、大きく揺れ続けたが、幸いにも作業員と塔本体に異常はなかった。そして、1週間後の3月18日。待望の高さ634mに到達した。

 2つの電波塔が、東日本大震災という試練に耐えたことは、多くの人に勇気を与えたような気がする。

 私事になるが、9月下旬に、拙著『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)を出版した。


 この本は、「東京の鬼門」をテーマに、全体を3部で構成。

 第1部は、昭和天皇が長い歴史のなかで初めて「鬼門の禁忌」を超えられて、皇居に「聖なる森」を誕生させるまでの、静かな物語である。

 第2部は、建築家の丹下健三が期せずして関わった、「不思議な回り道」の物語である。その「回り道」は、富士山を起点とし、東京都庁舎を経由して、最終的には皇居の「聖なる森」へと通じていく。

 第3部は、東京スカイツリーと東京タワーの「隠された正体」を主題とした、謎に満ちた物語である。その大半を費やして、2つの電波塔が、千年の時を超え、「幸運の双塔」として「再会」するまでのプロセスを綴る。次に、2つの電波塔から皇居の「聖なる森」へと続く、もうひとつの「不思議な回り道」について触れる。

皇居の「聖なる森」とは何か、丹下健三の「不思議な回り道」とは何か、2つの電波塔の「隠された正体」とは何か…。

 そして、「回り道」を探そうとするとき、上野公園の山王台に立つ西郷隆盛の銅像が、いわば「影の主役」を務める。西郷像は、故郷の鹿児島、敬愛する明治天皇が居住した皇居、江戸の薩摩屋敷などがある南西の方角から目を背けて、視線をなぜか反対の東南の方向に向けている。

 

 推理小説にならった、読者への挑戦もある。「大きな目の西郷さんは、東南の方角で、いったい何を見ていると思いますか?」。

 参考「amazonのウェブサイト」

 東京スカイツリーと東京タワー―鬼門の塔と裏鬼門の塔-細野-透

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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