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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2014年7月15日

第145回三井不動産レジデンシャルの「追撃」(前編)

 三井不動産レジデンシャルは6月下旬、住戸内の間仕切りを自由自在に変更できる「カナウプラン(KANAU PLAN)」方式を初採用した、「パークホームズ駒沢ザレジデンス」の販売を開始した。

 マンションの住戸に自由な間取りを実現する方法としては、「オーダーメード(自由設計)」方式が知られている。これに対して、カナウプランは入居時に自由な間取りを実現するだけではなく、暮らしの変化に合わせて間仕切りを自由自在に変更できる画期的なシステムで、3つの特徴を持つ。

 一 床・壁・天井を凹凸のないフラットな構造にした上で、キッチン、浴室、洗面、トイレなどの水回りを1カ所に集約。これを空間の原型とする。

 二 次に可動式の収納ユニットで空間を自由に仕切る。ユニットはクローク用、下足用、書籍用、陳列用など各種ある。またドア(引戸)を取り付けたユニットを用意して、好きな場所にドアを設けられるように工夫した。

 三 照明はすべてダウンライトとし、また間仕切りに合わせて点灯範囲を変更できるよう配慮した。

 カナウプラン方式の間取りを見てみよう。


 これは「玄関近くに自転車メンテナンス用のスペースを設けた住戸」。収納ユニットは黄色で示した。


 これは「子供部屋(二人兄弟)を主役にした住戸」である。

 さて、この記事に対して、「三井不動産レジデンシャルの追撃」というタイトルを付けた理由を説明したい。

 分譲マンションの住戸の間取りを決める方法には、大きく標準プラン、メニュープラン、オーダーメード(自由設計)の3方式がある。

 一「標準プラン方式」──販売主が標準的なプランを用意する方式。

 二「メニュープラン方式」──販売主が標準プランに加えて、数種類の代替プランを用意する方式。

 三「オーダーメード(自由設計)方式」──水回りの空間を除いて、購入者が自由に設計できる方式。

 オーダーメード方式でいわば独走状態にあるのは野村不動産。実績はダントツで他社の追随を許さない。

 同社はさらに、「スケルトン・オーダーメード」方式も開発した。これは外観や共用部などがほぼ完成し、かつ専有部については内装も間仕切りもないスケルトン(構造体)の状態で、販売する方式である。水回りなどは配管が届く範囲までと多少の制約はあるが、それ以外は自由に設計できる特徴を持つ。

 これに対して、三菱地所レジデンスは「スタイルハウス」という名前のオーダーメード(自由設計)方式を開発済みではあるが、実績はそれほど多くはない。

 一方、住友不動産は、間取りとインテリア仕上げを多彩なバリエーションの中から選択できる、「カスタムオーダー方式」を開発した。これはオーダーメード方式を簡易化したシステムである。

 このような状況の中で、三井不動産レジデンシャルが新築マンションでオーダーメード方式の初採用に踏み切ったのは、筆者の理解によれば、2013年8月に完成した「ローレルタワー夕陽丘」(近鉄不動産、三井不動産レジデンシャル、大阪ガス都市開発)が初めてだった。しかし、その後、同社がオーダーメードに積極的になったわけではない。

 そして今回、満を持したかのように、カナウプラン方式を開発した。

 オーダーメード方式は入居時に間取りを自由に設計できる。けれども、カナウプラン方式であれば、入居時に間取りを自由に設計できるのに加えて、ライフスタイルの変化に合わせて間仕切りを自由に変更できる。つまり野村不動産を「追撃」する有望な方法を開発したと見ていいのである。 (以下、後編)

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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