リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2012年1月24日

第55回東京都と政府が「旧耐震マンション」の改善策

 東京都は、旧耐震マンションの耐震補強工事および建替え工事が、遅々として進まない現状に危機感を抱いて、東日本大震災の発生後に3つの措置を矢継ぎ早に講じた。また、政府も東京都の対応を後押しする方針を打ち出した。

 【第1の措置──緊急輸送道路沿道建築物の耐震化を推進する条例】

 東京都は、2011年3月18日に、「東京における緊急輸送道路沿道建築物の耐震化を推進する条例」を公布。震災時において、建築物の倒壊による緊急輸送道路の閉塞を防止するため、沿道の建築物の耐震化を推進することにした。

 これにより、「敷地が特定緊急輸送道路に接していて、1981年(昭和56年)5月以前に竣工し、かつ道路幅員のおおむね2分の1以上の高さを持つ旧耐震建物」については、「耐震診断」「状況の報告」「耐震改修等の実施努力」を義務づけることにした。

 そして、建物の所有者が耐震診断を実施しない場合には、建物名などを公表するだけでなく、所有者には罰金が科せられる。

 【第2の措置──専門家会議の設置】

 次いで、2011年6月3日に、「東京緊急対策2011」を公表。「学識経験者などからなる専門家会議を設置して、マンションの耐震化促進のための実効性のある方策を検討する」とした。

 【第3の措置──マンション耐震化促進等のための国への緊急提案】

 さらに、2011年11月22日に、専門家会議の議論を踏まえて、国に対して、「マンション耐震化促進等のための国への緊急提案」を行った。

 この緊急提案は4つの骨子からなる。

 (1)マンションを耐震改修する場合の合意要件の緩和

 「建物の区分所有等に関する法律」(通称、区分所有法)の第17条によれば、マンションを耐震改修する場合には、所有者の「4分の3の賛成」が必要とされている。そして、これがネックになって、旧耐震マンションの耐震改修が進まないケースが多い。

 東京都は、マンションの耐震改修はその重要性を考慮して、区分所有法の第18条を適用して、所有者の「過半数の賛成」で済むように改めるべきと提案した。

 (2)耐震性が低いマンションを建替える場合の合意要件の緩和

 区分所有法の第62条によれば、マンションの建替えには所有者の「5分の4の賛成」が必要とされている。しかし、これがネックになって、旧耐震マンションの建替えが進まないケースが多い。

 東京都は、いつか必ず来る首都直下地震、あるいは関東大地震に際して、旧耐震マンションの居住者を救うためには、第62条が定める合意要件を緩和することが緊急の課題であると提案した。

 (3)既存不適格マンションの別敷地での建替えを可能にする仕組み

 区分所有法の第62条は、建替えは主に現敷地で行うものと定めている。しかし、容積率などが既存不適格のマンションの場合には、現敷地での建替えが困難なケースが多いため、別敷地での建替えが可能となるような仕組みづくりが必要であると提案した。

 (4)建替え決議が成立した場合、賃貸借契約の解約を可能にする仕組み

 マンションの建替え決議が成立したにも関わらず、賃貸借契約が解約できないために、建替えが進まないケースがある。このため、借地借家法第28条を改正して、建替え決議が成立した場合は、建物賃貸借契約の解約ができるようにするべきであると提案した。

 【政府の方針──区分所有法など関連法制を見直しへ】

 2012年1月4日付けの日経新聞は、政府の方針を次のように伝えた。

 

 (1)マンションを耐震改修する場合の合意要件の緩和

  所有者の「4分の3の賛成」を、「2分の1超の賛成」に改める。

 (2)耐震性が低いマンションを建替える場合の合意要件の緩和

 所有者の「5分の4の賛成」を、「3分の2の賛成」に改める。

 (3)法案提出の予定

  2013年の通常国会に法案を提出する。

 この法案が可決されれば、事態は大きく動くものと予想される。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


BackNumber


Copyright (c) 2009 MERCURY Inc.All rights reserved.