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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2017年1月10日

第234回ドナルド・トランプ新大統領の「不動産王、倒産王、敗者復活」という歩み

 米国のドナルド・トランプ新大統領は、「アメリカの不動産王」と呼ばれることもある一方、「倒産王」呼ばれた時代もあった。

 不動産王と呼ばれたのは、1981年にロナルド・レーガン大統領が登場して、米国の景気がよくなった時代。その象徴が、1983年にマンハッタンの目抜き通り5番街に建設された、「トランプ・タワー」である。高級アパートメント、ショッピングモール、オフィスエリアを擁する複合施設で、80年代にはスピルバーグやマイク・タイソンといったセレブが入居し、その後もNYヤンキースのデレク・ジーターや、ハリソン・フォード、ビヨンセなどの有名人が住んだ。

 しかし、1980年代後半には、当時経営不振に陥っていた大手航空会社のイースタン航空に手を出して大失敗。1991年にカジノが、1992年にホテルが倒産した。マンハッタンに所有する物件も多数を売却せざるを得なかった。

 それとタイミングを合わせるかのように、日本でも1991年から1993年にかけてバブルが崩壊。その結果、麻布建物(2007年に倒産)の渡辺喜太郎社長、秀和(2005年に買収されて消滅)の小林茂社長(故人)などとならんで、ドナルド・トランプ氏の名前が引き合いに出されるケースが多かった。

 日本で、トランプ氏に関する本が最初に出版されたのは、1988年にダイヤモンド社から出版された翻訳書『交渉の達人トランプ―若きアメリカ不動産王の構想と決断』である。

 ──この男の手にかかるとニューヨークが一変する。41歳、資産3800億円、アメリカン・ドリームを実現した男は、どう生きてきたのか・・・というキャッチコピーだった。

 第1部 トランプ帝国のルーツ──ドナルドの父・建築業者となる

 第2部 若き日の帝王──ペンシルバニア大学を出て、不動産業界に踏み出す

 第3部 トランプ帝国を築く──政府との闘い、5人の兄弟、取り引きの天才

 第4部 帝国は何をめざす──ティファニーの隣のビルを買収、ドナルド夫妻の私生活

 第5部 アメリカを動かす──カジノの経営とドーム・スタジアム、マンハッタン開発計画

 1992年には飛鳥新社から2冊目の翻訳書『経営者失格―トランプ帝国はなぜ崩壊したのか』が出版された。帝国が崩壊して「倒産王」と呼ばれた頃だから、もちろん内容は手厳しい。

 01 トランプの虚と実

 02 会社を疲弊させるワンマン経営

 03 大衆を嫌っていた「ヒーロー」

 04 対決を好み、競争をあおる

 05 コスト計算なき放漫経営

 06 冷酷非情な「取引の達人」

 07 部下に要求すること

 08 自意識過剰のふるまい

 09 かけがえなき腹心の死

 10 トランプ一流の保身術

 11 バブルの申し子

 12 大物ギャンブラー

 13 神から人間への転落

 14 トランプ最後の大ばくち

 15 帝国崩壊の足音

 16 トランプと訣別した日

 それに続いて、1999年には日経BP社から3冊目の翻訳書『敗者復活』が出版された。キーワードは「カムバック」だった。

 ──90年代初めの米国不動産不況で、あまたの不動産業者が死の淵に沈んで行った。しかし、誰もがその代表格だと思ったトランプは、不死鳥のごとく甦った。彼はいかにしてカムバックしたのか・・・。

 01 戦いの始まり

 02 ボードウォークの再生  

 03 最も豪華なビル

 04 マー・ア・ラーゴ

 05 トランプ・インターナショナル

 06 ミス・ユニバースのマスター

 07 トランプ・タワー

 08 私の人生における女性たち

 09 結婚前同意書の技巧

 10 巨大プロジェクト

 このように1冊目は『若きアメリカ不動産王』として飛躍し、2冊目は『経営者失格』で地に落ちてしまい、3冊目は『敗者復活』でしぶとく生き延びてきた。

 これをAmazonで購入すると『若きアメリカ不動産王』は1820円、『経営者失格』は3500円であるのに対して、『敗者復活』だけは2016年12月初旬には10万円というずば抜けて高い値段が付いた(その後は、約1万5000円まで低下した)。

 実は3冊目の『敗者復活』が1999年に出版された当時、私(細野)は日経BP社の出版局に在籍し、同書を出版するかどうかを決める企画会議に出席していた。「日本では麻布建物も苦しいし、秀和も苦しい。アメリカは広いので敗者復活がありえるが、日本ではそのような夢物語はありえない・・・」。

 このように、否定論が強かったが、どういうワケか出版が決まった。ただし、否定論を考慮して、発行部数はぎりぎりの最低部数に絞り込んだ記憶がある。Amazonで一時的に10万円という価格が付いたのは、その影響なのかもしれない。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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