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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2017年5月23日

第248回野村不動産『郵便局』とNTT都市開発『電話局』の"お宝活用"を比較

 5月12日(金)の23時過ぎ、NHKが「日本郵政、野村不動産を買収へ」とするニュースを速報した。翌13日(土)には、全国紙も一斉にこのニュースを伝えた。

 ──日本郵政は収益力を高めるため、全国にある郵便局の土地などを有効活用して不動産事業を強化することにして、大手の野村不動産ホールディングス(HD)の買収に向けて本格的な検討に入ったことを明らかにした。

 日本郵政は、すでに去年秋に、野村不動産HDに対して書面で買収の提案を行うとともに、野村不動産の33%余りの株式を保有している証券最大手、野村ホールディングスとの間で調整を進めていた──。

 週明けの5月15日(月)には、野村不動産HD株に買い注文が集まって、ストップ高水準の前週末比25%高に達しただけではなく、不動産株全般に思惑的な買いが広まった。

 「野村不動産が買収されるかもしれない」というニュースは、不動産関係者を驚かせた。

 それにしても、なぜ野村不動産なのだろう。実は買収理由を説明する資料の作成に備えるかのように、5月12日(金)には、不動産大手5社の2017年3月期決算がまとまっていた。

 表に示すように、野村不動産の売上高は大手5社の中では最も少ない5696億円なので、日本郵政としては「規模的には十分に手が届く範囲」と考えたのかもしれない。

 そもそも三井不動産、三菱地所、住友不動産の3社は、最終利益が過去最高を更新した。また東急不動産も増益を確保した。しかし野村不動産だけは、最終利益が減益に甘んじた。

 全国に約2万4000局の郵便局を展開する日本郵政としては、「野村不動産なら郵便局の資産活用に協力しやすい状態にある」と考えたのではないだろうか。

 さて、私は建築専門誌『日経アーキテクチュア』の編集長だったため、大学で建築を学んだ人の就職先についてはよく知っている。かつては建設会社、設計事務所、住宅メーカーなどに加えて、「官公庁の建築設計部門」にも人気があった。

 その代表格が日本電信電話・建築局であり、また郵政省・施設部(管理課、建築企画課、建築業務課、設備課)だった。前者は主に電話局の設計と管理、後者は郵便局の設計と管理を手がけ、「安全で安心できる設計と、丁寧な管理を行う、堅実な集団」として、その実力は建築界から高く評価されていた。

 このうち、日本電信電話・建築局の"優秀な遺伝子"を引き継いだのが、不動産会社のNTT都市開発である。同社は1986年、NTTグループの電話局跡地などの遊休地開発を目的に設立された。全国主要都市でのオフィスビル賃貸を主力業務としており、近年ではマンションなどの分譲事業にも参入。2016年3月期の売上高は1830億円で、総合不動産ランキングでは全国12位に入っている。

 そして今回、日本郵政が野村不動産HDを買収して、郵政省・施設部が残した遊休地などの本格的な活用に乗り出そうとしている。そこでNTT都市開発と野村不動産HDの両社を比較してみた。

 表に示すように、野村不動産HDの売上高はNTT都市開発の3.1倍、資本金は2.4倍だが、従業員数は実に8.1倍である。ただし、野村不動産HDの従業員6457名のうち、4864名はマンションやビルの管理を手がける野村不動産パートナーズに所属している。

 そのため、野村不動産だけを対象にすると、売上高(4090億円──2015年3月期)はNTT都市開発の2.2倍であり、また従業員数(1899名──2017年4月)はNTT都市開発の2.4倍とかなり近い数字になる。

 すなわち、郵便局の不動産を束ねる日本郵政が買収しようとしている、野村不動産HDの中核である野村不動産は、電話局の不動産を束ねるNTT都市開発の2.2~2.4倍程度の規模を持つ会社ということになる。

 電話局の数は1973年時点で全国に約5000局だった。これに対して郵便局は2017年時点で全国に約2万4000局とされる。立地の良さ、敷地の広さなどを総合的に考慮すると、電話局と郵便局の不動産的な "お宝具合"は、どちらが高いのだろうか。

 そして、そもそも日本郵政の野村不動産HD買収は、本当に成立するのだろうか。不動産関係者にとっては、当分、やきもきする日々が続くことになりそうだ。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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