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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2020年1月7日

第332回 集中連載①「武蔵小杉タワマン浸水」で判明した「建築基準法の弱点」

 私は一級建築士の資格を持っています。しかし、ジャーナリストという仕事柄、建築基準法には、段々に疎くなっていました。そんな状態の中で、2019年10月の台風19号によって、武蔵小杉に立つタワーマンションの地下が浸水してしまいました。

 今回はその「法的な意味」を考えるため、改めて建築基準法を見直したいと思います。建基法で「浸水」に関係するのは、まず第19条「敷地の衛生および安全」です。

 1項─建物の敷地は「道路の境」より高く、建物の地盤面は「周囲の土地」より高くなければならない。

 3項─建物の敷地には、「雨水」や「汚水」を排出し処理するための「適当な下水管」や「下水溝」などを設けなければならない。

 19条の条文を読むと、地下が浸水した今回の事件とは、「関係がない」と思われます。

 次に建基法・施行令22条「居室の床の高さおよび防湿方法」です。これも今回の浸水事件とは、「関係がない」と思われます。

 要するに、建築基準法は手がかりにならなかったのです。なお、もっと詳しいことを知りたい人は、次の資料を参考にしてください。

 ◇国民生活センター「住まいの基礎知識-トラブルを未然に防ぐために」
 第8回 建物の性能とは(後編)、筆者は弁護士の河合敏男氏

 <http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201501_10.pdf>

【■■】国交省「地下空間における浸水対策ガイドライン」

 建築基準法が手がかりにならないとすれば、マンションデベロッパー、設計事務所、建設会社、マンション購入者、マンション管理組合、マンション管理会社、マンションが立つ自治体などは、何を手がかりにすればいいのでしょうか。

 こういう場合には、「国土交通省」の出番かと思われます。いろいろ調べると、同省のウェブサイトに「地下空間における浸水対策ガイドライン」という資料があることが分かりました。

 <http://www.mlit.go.jp/river/basic_info/jigyo_keikaku/saigai/tisiki/chika/>

しかし、その内容をチェックしてみると、ここでいう「地下空間」とは、主に「地下鉄駅の構内」や「地下鉄駅周辺の地下商店街」などを意味していました。

 すなわち、単独に立つ、「タワーマンションの地下室」を対象としたものではありませんでした。

【■■】日本建築防災協会「浸水時の地下室の危険性についてのパンフレット」

 念のために、東京都都市整備局のウェブサイトもチェックしてみました。すると、「浸水対策にかかる技術指針」として、A国交省の「地下空間における浸水対策ガイドライン」およびB日本建築防災協会「地下空間における浸水対策ガイドライン・同解説」に加えて、C日本建築防災協会「浸水時の地下室の危険性についてのパンフレット」についても紹介していました。

 このうちAとBは内容(表現)が堅くて難解な面があります。それに対して、Cは「パンフレット」なので、分かりやすいかもしれません。

 パンフレットのウェブサイトにアクセスしてみましょう。

<http://www.kenchiku-bosai.or.jp/news/bosainews/news/chikashitsu/sinsui.html>

 すると、そこには、次のようなメッセージが待ち受けていました。

 「お客様がお探しのページは見つかりませんでした」。

 台風19号や台風21号などで建物が水浸しになって、情報を求めている人が大勢いるはずなのに、こんな状態なのですね。「なんだかなぁ−」。

【■■】国交省が「新たな検討会」を開催

 何か落ち着かない気分でいたら、国交省住宅局建築指導課が、2019年11月25日付けで「プレスリリース」を出しました──。

 建築物における電気設備の浸水対策に関するガイドラインを作成します。「建築物における電気設備の浸水対策のあり方に関する検討会」(第1回)を開催。 

 近年の大雨により建築物の地下に設置された電気設備に浸水被害が発生している状況を踏まえ、建築基準法を所管する国土交通省、電気事業法を所管する経済産業省その他関係機関の協力の下、建築物における電気設備の浸水対策のあり方や具体的事例について収集整理し、ガイドラインとして取りまとめ、関連業界に対して広 く注意喚起を行うことを目的として、学識経験者等からなる検討会を設置します──。

 このガイドラインが完成すれば、建基法の弱点が少しは改善されるはずです。なお12月19日に開催された第2回の検討会では、ガイドラインの骨子案がテーマになりました。

【■■】各種資料の入手先

 この検討会についてもっと詳しい情報を知りたい場合には、国交省のウェブサイトにある「建築物における電気設備の浸水対策のあり方に関する検討会」にアクセスしてください。

<http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000132.html>

 そうすると、以下に示したような、各種資料の入手が可能です。
 資料3 既存の規程やガイドライン等における電気設備の浸水対策

 参考資料1「高層マンションにおける一般的な電力供給の例」
 参考資料2「浸水防止用設備建具型構成部材に関するJIS制定」
 参考資料3「浸水対策の取組事例」
 参考資料4「建築基準法令における電気設備の規定について」
 参考資料5「電気事業法における事業用電気工作物に関する保安規制について」

 この特別コラム欄では、10回程度の予定で、「タワマンの来し方、行く末」を考えていきます。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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