リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2017年11月21日

第266回不動産情報サイトが「ルールに違反した広告を減らす」ためにアノ手コノ手

 前回は、不動産情報サイトが「ルールに違反した広告」を掲載している実態、について紹介した。今回は、不動産情報サイトが取り組んでいる「ルールに違反した広告を減らす」ためのアノ手コノ手、に焦点を合わせたい。

 【■■■その1──不動産情報サイト事業者連絡協議会の設立】

 今から約15年前の2002年4月。不動産情報サイトを運営するアットホーム、ネクスト(現・LIFULL)、リクルートの3社は、「不動産情報サイト事業者連絡協議会」を設立した。その最大の目的は、「インターネット上における不動産広告の適正化」、であった。

 当時の資料には、設立主旨を高らかに歌い上げている──。

 「インターネットサイト上での不動産広告は、不動産会社にとっては、効率的かつ効果的な成約促進手段として活用されており、また一般消費者にとっては、自らが希望する不動産を効率的かつ効果的に探索する手段として支持されています」

 「ところが、インターネットサイト上で広告されている内容に虚偽等の不当なものが混在していたり、不動産公正取引協議会が定める『不動産の表示に関する公正競争規約』に反する表示が行われていたりします」

 「これでは、広告主である不動産会社の信用が失われてしまうばかりか、その不動産情報サイト自体だけではなく、不動産情報を発信しているすべてのサイトの信用失墜にまで発展しかねません」

 「私ども不動産情報サイトを運営する事業者は、こうした事態を防止することを目的に、不動産情報を適正かつ公正に不動産会社から一般消費者に伝達するために、不動産情報サイト事業者自らがルールを策定し、それを遵守していくこととしました・・・」

 しかしながら、「不動産情報サイト事業者連絡協議会」が目的を果たせなかったことは、前回の記事において、「不動産情報サイトが『ルールに違反した広告』を掲載している実態」として報じた通りである。

 【■■■その2──ポータルサイト広告適正化部会の設立】

 「不動産情報サイト事業者連絡協議会」と役割を交代するかのように、2012年3月に「首都圏不動産公正取引協議会」はその内部に「ポータルサイト広告適正化部会」を設立して、不動産広告の適正化に本腰を入れて取り組み始めた。2012年当時の部会メンバーは、アットホーム、ネクスト(現・LIFULL)、リクルート住まいカンパニーの3社に、CHINTAI、マイナビを加えた5社であった。

 「ポータルサイト広告適正化部会」は次のような目標を掲げた。

 (1)不動産情報サイトにおける表示項目等の整備

 (2)不動産業者との取引開始時の対応

 (3)不動産への表示規約の普及・啓発活動

 (4)苦情への対応

 (5)調査対応

 (6)改善要請等への対応

 (7)規約改正・運用への提言

 この「広告適正化部会」の活動で特に注目されるのは、2014年3月から着手した、いわゆる「おとり広告」および「特に悪質な不当表示」を減らすことを目的とした、以下の対策である。

 

 (1)違反物件(「おとり広告」および「特に悪質な不当表示が認められる広告」)に関する情報を、広告適正化部会に参加する各社が共有する。

 (2)広告適正化部会に参加する各社は、自社が運営する不動産サイトから上記の物件広告を削除し、再発防止を図る。

 【■■■その3──「おとり広告」の分かりやすい定義】

 それでは、どんな広告を「おとり広告」と呼ぶのだろう。「不動産の表示に関する公正競争規約---第21条(おとり広告)」によれば、インターネット広告等において表示した物件が、以下の事項のいずれかに該当すれば「おとり広告」と判断される。

 (同条第1号)物件が存在しないため、実際には取引することができない物件に関する表示

 (同条第2号)物件は存在するが、実際には取引の対象となり得ない物件に関する表示

 (同条第3号)物件は存在するが、実際には取引する意思がない物件に関する表示

 ただし、広告適正化部会は2014年3月に、これだけでは分かりにくい面があるとして、「おとり広告に該当するおそれのある表示の一例」と題する資料を作成した。その資料に筆者がさらに手を加えたのが、以下の表である。

 この表に示したように、「実際には取引することができない物件」、「実際には取引の対象となり得ない物件」、「実際には取引する意思がない物件」に関する広告を、「おとり広告」と呼ぶ。

 【■■■その4──ポータルサイト広告適正化部会の成果】

 さて2012年3月に設立された「広告適正化部会」が実施してきた、違反物件(「おとり広告」および「特に悪質な不当表示が認められる広告」)を減らす対策は、どのような成果を上げているのだろうか。

 (1)2014年度の違反物件数──全国で2184物件

 (2)2015年度の違反物件数──全国で3169物件

 (3)2016年度の違反物件数──全国で2812物件

 数字を見る限りではまだ「一進一退」という感じである。このうち、2016年度については、各都道府県ごとの内訳が公表されている。

 東京都と神奈川県を合計すると、共有物件数(違反物件数)は931件、おとり物件数は495件(約53%)である。これに対して大阪府と兵庫県を合計すると、共有物件数(違反物件数)は1150件、おとり物件数は894件(約78%)である。

 すなわち、おとり広告に関しては、「西高東低」の傾向が明確に現れている。

 【■■■その5──広告掲載を1か月以上停止する施策】

 「首都圏不動産公正取引協議会」は2017年1月、「ルールに違反した広告」を減らすために新たな対策を講じた。同公取協が違約金を課徴した不動産会社に対して、「不動産情報サイトへの広告掲載を、原則として1か月以上停止する施策」を開始したのである。

 しかも、この広告掲載停止施策については、ポータルサイト広告適正化部会のメンバー5社が運営する不動産情報サイトに加えて、メンバー以外の3社が運営する不動産情報サイトも参加している。

 首都圏不動産公正取引協議会はそもそも、「不動産広告のルール」を定める「不動産の表示に関する公正競争規約」に基づいて設立された組織である。そして、同協議会が発行する『公取協通信』を読んでみると、消費者庁や公正取引委員会と密接に連絡を取り合って、「ルール違反広告を減らすためのアノ手コノ手」に取り組んでいることが分かる。

 筆者としては、アノ手コノ手の中に、「AI(人工知能)を活用した検出機能の開発」というテーマを組み込んではどうかと感じている。最終的な決め手はAIの活用によってもたらされるのではないか。

 ちなみに、グーグルに「"AI""おとり広告"」と入力すると、その方向の動きが何件かヒットした。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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