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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2013年5月14日

第103回羽澤ガーデンが「ザ・パークハウス広尾羽澤」へ (ビフォー&アフター 2)

 三菱地所レジデンスが5月下旬に販売する、「ザ・パークハウス広尾羽澤」の敷地は東京都渋谷区広尾3丁目にある。東京メトロ日比谷線広尾駅から徒歩12分、同恵比寿駅から13分。広さ8465平方メートルの敷地は、大正末期に東京市長を務めた中村是公が私邸を構えた由緒ある土地である。

 中村は1927年(昭和2年)に死去し、土地の所有者は代わった。戦後の1947年、食肉業者の日山商会(現・日山)の創業者が購入。1950年になって、料亭・レストランの羽澤ガーデンが、この土地を借りて営業を開始した。

 落ち着いた日本家屋と広い日本庭園を持つ羽澤ガーデンは、将棋や囲碁の名人戦などの舞台となったことで知られる。私も、何回か、食事に訪れた覚えがある。その後、日山との契約終了に伴い、2005年12月で営業を終了した。

 2007年夏、日山と三菱地所がマンションの建設を計画した。これに対して、近隣住民は羽澤ガーデンの文化的価値を重視し、また庭園の緑の保全を求めて、渋谷区に開発許可の取り消しを求める行政訴訟を提起。さらに、東京都に対しても建築確認を認めないよう訴訟が起こされた。

 しかし、2012年、和解が成立。建物の庭にある既存樹の保存、暖炉や床の間の「違い棚」、庭の石畳や景石などを保存し、マンションの中や外に設置することになった。そして、三菱地所設計の設計、大成建設の施工により、2012年9月に着工にこぎ着けた。完成は14年4月の予定。

 建物は建築基準法的には地上3階・地下3階。総戸数114戸のうち、46戸が事業協力者(日山)の住戸となり、残る68戸が分譲される。

 敷地の中央に中庭を設け、その周辺に住棟を置き、外周部を擁壁で囲むという構成である。敷地の北東隅にある既存樹と移植樹の公園緑地、中庭、屋上緑化スペースを合計すると、緑化面積は敷地の約35%になる。

 さらに、メインアプローチに料亭時代の「石畳の雰囲気」を再現するとともに、目立つ場所に料亭の景石を据えた。加えて、エントランスホールのラウンジにはレストランの暖炉が置かれ、コンシェルジュカウンターの「床の間」には料亭の違い棚が飾られる。

 住戸の専有面積は約44~約152平方メートル、価格は4900万円台~2億7000万円台、平均坪単価は400万円台半ばを予定する。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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