リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2012年7月3日

第72回坪単価は841万円であり、473万円でもある

 野村不動産と三井物産は、6月中旬、「プラウド南麻布」の第1期販売を行った。このマンションは、「在日フランス大使館建替プロジェクト」の一環として建設された。フランス大使館が港区南麻布4丁目にある敷地の一部(約4500平方メートル)について事業者に定期借地権(60年間)を与えるかわりに、事業者が大使館の新庁舎を建設するプロジェクトである。

 この土地の魅力は、約1haもの豊かな森に面していること。鉄筋コンクリート造、地上7階、地下1階のマンションは、森を最大限に意識してプランニングされた。全88戸のうち、森に面した53戸には奥行き3mのゆったりしたバルコニーが装備されている。さらに、屋上にもテーブルとソファを置いたビューデッキが設けられる。

 専有面積は約69~約193平方メートル、平均坪単価は約415万円になる。そのうち、森に面した住戸は平均450万円超、反対側の住戸は平均約340万円とメリハリを付けた価格になっている。

 最高価格の住戸は、最上層の専有面積約193平方メートルのタイプで、4億9000万円。坪単価は「約841万円」になる。記者発表の席上で、ひとしきり話題になったのは、坪単価を本当に「約841万円」と見ていいかどうか、という問題だった。それは、この住戸には、約40平方メートルのバルコニーと約110平方メートルもの広いルーフテラスが付いているからである。

 専有面積   192.7平方メートル(58.29坪)

 バルコニー  39.72平方メートル(12.01坪)

 ルーフテラス 109.68平方メートル(33.17坪)

 合計     342.1平方メートル(103.47坪)

 話を先に進めるためには、まず、建築基準法施行令第2条が定める、建築用語を確認する必要がある。

 (1) 建築面積(建坪)

 建築物の「外壁またはそれに代わる柱の中心線で囲まれた部分の面積」で、一般に「建坪」といわれている。庇やベランダなどが1m以上突き出ている場合には、その先端から1m引っ込んだ線から内側は建築面積に算入される。

 (2) 床面積

 建築物の各階またはその一部で、「壁その他の区画の中心線で囲まれた部分の面積」。

 (3) 築造面積

 工作物(煙突、広告塔、高架水槽、擁壁その他これらに類する物)の面積。

 これによると、バルコニーのうち、「先端から1m引っ込んだ線から内側は建築面積に算入される」ことになる。一方、ルーフテラスは、建築面積、床面積、築造面積のいずれにも該当しない。すなわち、専有面積とバルコニーとルーフテラスを総称する用語が存在しないのである。

 しかし、用語がないと説明しにくいので、専有面積とバルコニーとルーフテラスを単純に合計した面積を、「広義の建築面積(建坪)」と呼ぶことにしよう。すると、広義の坪単価は、「4億9000万円÷103.47坪=約473万円」ということになる。

 要するに、住戸の「坪単価」は約841万円だが、「広義の坪単価」は約473万円になる。そして、この価格は、安いのか高いのか判断しにくい面がある。

 「4億9000万円という価格は、何を根拠にして決めたのですか」という質問を受けた販売担当者は、「前例がないので迷いました。坪単価ではとらえにくい面があるので、ああだろうか、こうだろうかと考えて、最終的には落ち着くところに落ち着いた感じです」と回答していた。

 写真は広さが約110平方メートルのルーフバルコニー(完成予想図)である。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


BackNumber


Copyright (c) 2009 MERCURY Inc.All rights reserved.