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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2010年10月26日

第23回骨まで変える「究極のリフォーム建築」

 2010年度の「グッドデザイン賞特別賞(サステナブルデザイン賞)」を、賃貸マンション「高根ハイツ」が受賞した。これは、建築家で首都大学東京教授の青木茂氏による「リファイン建築」である。

「リファイン建築」とは、古い建物の外装、内装、設備を徹底的にそぎ落とし、残った構造躯体(柱、梁、壁)を修復・補強した後に、改めてデザインし直して、新築同然に再生させる建築だ。いわば、骨まで変える「究極のリフォーム建築」になる。

 青木氏にとって、2010月1月に再生工事が完了した「高根ハイツ」は、45件目のリファイン建築になる。これは、東京都中野区に立つ、1963年竣工、RC造、4階、全22戸の賃貸マンションであった。築45年を過ぎて老朽化する一方、建築基準法の改正によって既存不適格になったため、新築した場合には容積率が半分に圧縮される、採算が取りにくい物件であった。

 そんな厳しい条件を打開する鍵になったのがリファイン建築である。要するに、躯体を残して再生すれば、法律的には改築と見なされて、従来通りの容積率を確保できる。

 再生工事に際して、青木氏は建築確認を申請して、構造評定書、確認済証、検査済証を取得したので、「資産価値」は向上した。また、Is値(耐震指標)は0.9と、基準値の0.6を大幅に上回ったので、かなり安全になった。さらに、工費は新築と比べて約70%で済んだのに加えて、賃料は新築物件と同レベルに設定できたので、申し分がない。

 リファイン建築の長所は、第1に、建物の歴史を尊重できること。第2に、躯体を再利用することで、産業廃棄物を約40%削減し、結果として二酸化炭素を約80%削減できる。第3が耐震性向上。割合に簡単な補強工事で、新耐震設計基準のクリアが可能である。第4が経済性で、新築に比べて工費を3?4割圧縮できる。

 グッドデザイン賞の担当審査委員は、「高根ハイツ」をこう評価した。

 「この建物においては検査済証が存在せず、構造についても曰く付きの状態であった。新たに検査済証を取得し、躯体を修繕して構造評定を通すというのは並ならぬ努力を要したことが想像される。一つ一つ問題を真摯に解決しリノベーションを成功させた努力に敬意を表したい」

 

 「その努力が壊されてしまったかも知れない建物に新しい命を吹き込み、新築と見紛うばかりの建物を出現させている。古い建物に込めれらた施主の思いと重なってこの建築の存在感を強めている。建築の寿命は、それに込められた人の思いによって決まるということを新ためて感じさせられた」

 ところで、青木茂氏がリファイン建築に初めて取り組んだのは、大分県佐伯市にある旧海軍防備衛所を資料館に再生した1988年。そして90年代に実績を積み重ねて、2000年代に入る頃には、「リファイン建築の第一人者」として、全国的に知名度が向上した。また、08年には首都大学東京・戦略研究センター教授に就任している。

 同氏が主宰する「リファイン建築研究会」は、各地で進む再生工事に関する見学会を、毎月のように実施している。面白くて役に立つため、時には200名を超える参加者を集める、熱気にあふれた見学会になっている。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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