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「斜め45度」の視点

2016年9月20日

第224回リクルートのSUUMOと「人工知能」

 人工知能は不動産の分野にどのような影響を与えるのだろうか。今回は東京大学の大学院生が、リクルート住まいカンパニーのスタッフと共同で取り組み、日本人工知能学会で発表した研究を紹介する。論文のタイトルは「推薦そのものがユーザに与える影響を考慮した情報推薦」と少し分かりにくい。

 「SUUMO」、「HOME'S」、「Yahoo!不動産」など不動産情報ポータルサイトの効果は、CV率(コンバージョン率、成約率)で比較される。訪問者数が1000人で、物件の資料請求件数が10件の場合、CV率は次のようにして計算する。

 CV率=資料請求件数÷訪問者数=10÷1000=1パーセント

 「SUUMO」の場合、資料を請求したCVユーザーと、資料を請求しなかった非CVユーザーを比較すると、CVユーザーはアクセス期間が3.9倍、アクセス回数が15.8倍になる。つまり、CVユーザーは不動産情報を真剣に検討するために、長期間にわたって、何回も繰り返してウェブサイトを訪問しているのである。

 今回の研究は、「SUUMO」を利用した約400万人のユーザーを対象に、そのアクセスログを解析する方法で行われた。

 まず28の物件カテゴリーを用意した。これは4タイプの商品(新築マンション・中古マンション・新築戸建・中古戸建)と、7タイプの属性(都心・23区・郊外×価格の高低)を組み合わせたもの。

 例えば物件カテゴリー5は「郊外、高価格、中古マンション」、物件カテゴリー8は「郊外、高価格、新築戸建」、物件カテゴリー27は「郊外、高価格、新築マンション」といった具合になる。

 アクセスログを解析するに際しては、以下の点に注目した。

 

 (1)ある物件カテゴリーを閲覧しているユーザーを対象に、現時点で最も高いCV率を持つ物件カテゴリーを計算する

 (2)次に、あるアドバイス(情報推薦)を行った場合、最も高いCV率を持つことになると予想される、新たな物件カテゴリーを推定する

 (3)現在の物件カテゴリーのCV率と、新たな物件カテゴリーの予想CV率を比較する

 すると、物件カテゴリー5「郊外、高価格、中古マンショ」を閲覧しているユーザーの場合には、物件カテゴリー27「郊外、高価格、新築マンション」を推薦するよりも、物件カテゴリー8「郊外、高価格、新築戸建」を推薦した方がCV率が2.92倍高くなる、という分析結果が得られた。

 すなわち、郊外で中古ではあるけれども高額のマンションを探しているユーザーに対しては、中古物件よりも新築物件を推薦した方が購買意欲が高まり、さらに同じ新築物件でもマンショより戸建を推薦した方が購買意欲が高まることが分かった。

 一般的な傾向をまとめておこう。

 (1)高額な物件を探すユーザーに対しては、同一の地域で、別タイプの商品を推薦した方が意欲が高まる 

 (2)低額な物件を探すユーザーに対しては、より都心に近い地域で、同じ価格帯の物件を推薦した方が意欲が高まる

 (3)中古の物件を探すユーザーに対しては、より郊外に近い地域で、新築の物件を推薦した方が意欲が高まる

 さて、多くの商品購入サイトでは、ユーザーの過去履歴をもとにして、推薦する商品を画面に露出する手法が一般的である。例えばAMAZONに行くと、私が読みそうな本をズラリと推薦してくる。

 それに対して、不動産の分野では従来、不動産広告の手法が一般的だった。そのため私がいろいろなウェブサイトを見ていると、「高額な新築マンション」の広告が追いかけてくる。

 私は取材の準備のために「高額な新築マンション」を調べているだけなのだが、ウェブサイトは「この人は上得意らしい」と誤解して、ドンドン追いかけてくる。

 その一方では、「SUUMO」、「HOME'S」、「Yahoo!不動産」などの不動産情報ポータルサイトには、AMAZONのような推薦機能はまだ見当たらない。しかし「人工知能」の研究が進化すれば、いずれ「SUUMO」が「情報推薦」の機能を導入する日が来るのかもしれない。

 【参考資料】

 大知正直・関喜文(東京大学工学系研究科技術経営戦略学専攻)、川上登福(経営共創基盤)、小野木大二・野村眞平・吉永恵一(リクルート住まいカンパニー)、松尾豊(東京大学工学系研究科技術経営戦略学専攻)著「推薦そのものがユーザに与える影響を考慮した情報推薦」(日本人工知能学会・第28回大会、2014年)

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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