リアナビ

スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2015年7月21日

第182回4次元販売戦というキーワード

 新たに販売されるマンションの評価記事では、販売担当者に想定購入者のプロフィールを聞いた結果を書き込んでいる。

 丸紅・モリモト「グランスイート神楽坂ピアース」ではこう書いた。「問い合わせが4000件、モデルルーム来場者が700組と極めて好調。新宿区に住み、矢来町に何らかの縁があるファミリー層が中心で、立地と学区(市谷小学校)に対する評価が高い」。

 またアパホーム「ザコノエ代官山」ではこう書いた。「帽子の社長として有名な元谷芙美子アパホテル社長や、沖田良一アパホーム社長が土日に陣頭指揮する効果もあって、モデルルームへの来場者は約500組と快調。多数を占めるのは渋谷区、次に目黒区と世田谷区の居住者で、有名人や有名企業経営者などの夫婦が、現在の住宅に加えて、実需または投資目的で購入するケースも目立つという」。

 しかし最近になって、これではマンションの「4次元販売戦」の実情をきちんととらえていないと実感して、聞き方を少し改めることにした。4次元販売戦とは「実需客」、「投資客」という昔からの2組に、「海外の投資家」および「相続税対策組」という新たな2組を加えた、4組をターゲットにした販売戦を指す。

 この方式を取材に初めて適用した、東京建物と首都圏不燃建築公社「ブリリアタワーズ目黒」では、記事はこう変化した。「この物件は販売活動を開始してから1週間で資料請求件数が2千件を突破。5月末時点で2万2千件にも達し、業界新記録ペースとして話題を呼んだ。担当者は、『当初は6千件と予想していた。販売現場は嬉しい悲鳴をあげている』と話す。購入予定者の内訳は実需客が5割、投資客が3割、相続税対策組が2割。忙しいため海外投資客には対応しにくいという」。

 このように、東京都心におけるマンション販売の現場では、すでに4次元販売戦に突入していたためなのか、担当者は即座に数字を答えてくれた。

 三井不動産レジデンシャルとJX日鉱日石不動産「パークシティ武蔵小杉ザガーデンタワーズイースト」ではこう書いた。「購入者の中心は30~40歳代、中原区居住、年収1千万円以上の層が占める。また実需客95パーセント、投資客5パーセントの割合で、海外投資客はゼロに近い」。

 このように実需客、投資客、海外の投資家、相続税対策組というキーワードを使うと、マンションの雰囲気を別の角度から感じとれるようになる。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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