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「斜め45度」の視点

2017年11月7日

第264回『SUUMO新築マンション---これから販売予定のマンション特集』にイエローカード

 リクルート住まいカンパニーの週刊情報誌、『SUUMO新築マンション』は毎週・火曜日に発行される。現在は首都圏版、名古屋版、関西版など7種類があり、全発行部数は4万3000部だという。

 不動産情報サイトの『SUUMO』、『LIFULL HOME'S』、『Yahoo!不動産』などと比べると、全体をパッと見る一覧性に優れているため、私もときどき利用させてもらっている。

 その『SUUMO新築マンション』には、ほぼ毎号のように、「これから販売予定のマンション特集」と題する企画が登場する。しかし、その特集に掲載された物件をチェックしていくと、頭の中でハテナマーク(?)がパッパッパッと点滅し始めるのである。なぜだろうか。

 初めに、「不動産広告のルール」を定める「不動産の表示に関する公正競争規約」を参考にして、物件の3段階について整理しておきたい。

 A「分譲予定(販売予定)物件」

  販売される住戸、その価格、販売開始日などが予定または未定の状態で、「予告広告」を行っている物件のこと。

 B「新規分譲(新規販売)物件」

  販売される住戸、その価格、販売開始日(申し込み受付の日程)などが決定し、「本広告(新規分譲広告)」を行っている物件のこと。

 C「分譲中(販売中)物件」

  販売開始日が過ぎて、いつでも申し込める物件。先着順で申込受付をしているのが一般的。

 次に、『SUUMO新築マンション』の中身についても、説明しておきたい。同誌には、「マンションレポート」と題する、各物件を編集記事風に仕上げた広告記事がある。これが主要コンテンツになる。

 この「マンションレポート」に掲載された各物件は、「販売予定マンション」「新規分譲マンション」「分譲中マンション」の3種類に区分けされ、それがきちんと明示されている。当然のことながら、「販売予定マンション」は上記のA、「新規分譲マンション」はB、「分譲中マンション」はCを意味している。

 以上を前提にして、とりあえず『SUUMO新築マンション首都圏版10月3日号』をチェックしてみよう。

 雑誌の表紙に黒色で「販売予定のマンション特集」とある。雑誌をめくっていくと、「これから販売予定のマンション特集」という一覧ページがあり、以下10ページにわたって分譲マンション50物件の概要がコンパクトにまとめられている。そして、そのうち47物件には「予告広告」と明示してある。

 次に、全50物件について販売時期あるいは販売予定時期を確認すると、物件によって「第1期、第1期2次、第2期、第2期2次・・・」と分かれているが、すべて10月中旬以降になっている。確かに「これから販売されるマンション」というタイトル通りの内容であるように感じられる。

 しかし、「予告広告」と明示した47物件を個々にチェックしていくと、ハテナマーク(?)がパッパッパッと点滅し始める。実際にはA「分譲予定(販売予定)物件」、B「新規分譲(新規販売)物件」、C「分譲中(販売中)物件」という3タイプが混合しているためである。詳しく説明すると、次のようになる。

 A「分譲予定(販売予定)物件」──これから販売が予定されるマンション。

 

 B「新規分譲(新規販売)物件」──新たに販売されることが決定したマンション。

 C「分譲中(販売中)物件」──現在、販売中のマンション。

 「不動産の表示に関する公正競争規約」を厳密に適用すると、A物件は「予告広告」を行っている物件、B物件は「本広告」を行っている物件、C物件はかなり前に「本広告」を行った物件でなければならない。しかし「販売予定のマンション特集」の中では、A物件にだけではなく、B物件とC物件にもすべて「予告広告」と表示しているのである。

 これで、公正競争規約を遵守しているといえるのだろうか。いや、明らかに違反行為である。この瞬間に、私の頭の中のハテナマーク(?)は、すべてペケマーク(×)に変わってしまった。

 公正競争規約とは別に、正しい日本語という観点からは、C「現在、販売中のマンション」を、「これから販売予定のマンション」と表現するのには強い違和感がある。

 以上のような理由から、「これから販売予定のマンション特集」には、イエローカードを突きつけなければならない。これを回避しようとする場合、3つの方法があると思われる。

 方法1──「これから販売予定のマンション特集」に掲載する物件を、「予告広告」に合致する、前記のA「分譲予定(販売予定)物件」だけに限定する。

 方法2──特集名を「新たに販売されることが決定したマンション」に改め、掲載する物件を「本広告」に合致する、前記のB「新規分譲(新規販売)物件」だけに限定する。

 方法3──「これから販売予定のマンション特集」というタイトルを、A・B・Cの3タイプを包括した表現に改め、かつ物件ごとに適切に「予告広告」あるいは「本広告」などと表記する。

 さて、『SUUMO新築マンション』には最近、別の特集も掲載されている。

 まず、「価格公開マンション特集」である(写真は表紙の一部)。同誌は次のようにアピールしている──。新築マンションは、販売対象住戸や価格が決まるまでは、広告内で「予定価格未定」と表記されており、いくらくらいで買えるのか、すぐには分からないことがある。今週は、予定価格帯や価格が決まっている「価格公開マンション」が勢ぞろい。今すぐチェックしよう。

 次に「実物が見られるマンション特集」(写真は表紙の一部)。これは建物がすでに完成した「即入居可の物件」、および建物がほぼ完成したため「見学可になった物件」の2タイプに分かれる。

 続いて「自由見学できるマンション特集」(写真は表紙の一部)。これがどんなマンションなのか、私には想像がつかなかったが、皆さんはどうだろうか。

 そこで特集ページを読んでみると、実際には「自由見学できるモデルルーム特集」のことだった。世間ではこれを「看板に偽りあり」という。これもまたイエローカードである。

 中身を点検すると、「見るだけOK!予約不要!」「自由見学チケットを使って、モデルルームに行ってみよう」。いかにもリクルート住まいカンパニーならではの企画である。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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