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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2017年3月28日

第242回宅配ボックスを巡る「宅配員の悲鳴」と「管理組合の苦労」

 インターネット通販の拡大とともに、宅配業者がマンションに設置された宅配ボックス(宅配ロッカー)の不足に悲鳴を上げている。それだけではない。マンション内部では、宅配ボックスの使用方法について、住民同士のトラブルが増えているようなのだ。

 国土交通省の調べでは、留守のため配達指定時間に荷物を受け取ることができない世帯が増えて、2015年度には荷物の約2割は再配達に回さざるを得なかったとされる。その結果、ただでさえ人手が足りない宅配便の配達員は、オーバーワークに悲鳴を上げている。

 今後、さらにネット通販が拡大すれば、人手不足の深刻さも相まって、宅配網の維持が難しくなる心配もある。そのため経済産業省・国交省・環境省などは連携して、2017年4月から宅配ボックスの設置費用を補助する制度を開始。まず約500カ所に新設する目標を掲げている。

 ただし、対象になるのは駅やコンビニなど公共的なスペースに設置する宅配ボックスで、マンション住民専用の宅配ボックスは対象外となる見込み。よって、マンション内の宅配ボックスの不足問題は、ますます深刻になると思われる。

 それと同時に、マンション内で増えている、宅配ボックスの使用方法を巡る住民同士のトラブルにも目を配る必要がある。

 マンションのエントランスに設置された宅配ボックスを使用する場合には、配達員が暗証番号を打ち込み、その暗証番号を「不在票」に書き込んで、各戸の郵便受けに入れておくケースが一般的である。しかし、国民生活センターによれば、その不在票が誰かに取られたり覗かれたりして、荷物が盗まれる事件が少なくないという。

 それに加えて、共用のはずの宅配ボックスを私物化して、ゴルフのバックやスノーボードなどの保管に使う、手前勝手な住民も少なくないとされる。さらに、配達された「生鮮食料品」を数日間取り出さないため、腐臭に困るケースもあるようだ。

 このような場合には、マンション管理会社や管理組合から注意するのが一般的だが、それだけでは不十分なこともあるので、管理組合としては規則を決めておいた方がいいかもしれない。日経アーキテクチュアのウェブサイトには、次のような「宅配ボックス使用細則テンプレート」が掲載されている。

 (趣旨)第1条 

 この細則は、○○マンション管理規約(以下「規約」という)第○○条(細則)の規定に基づき、○○マンションに設置する宅配ボックスの使用に関し、必要な事項を定めるものとする。

 (使用目的)第2条 

 宅配ボックスは、現に居住する区分所有者又は占有者(以下「居住者」という)が不在時に、居住者に代わって受け取り、一時保管する目的のために設置するものである。

 2 居住者が在宅の場合には、居住者が直接宅配業者と授受するものとし、他の目的に宅配ボックスを使用してはならないものとする。

 (保管期間)第3条 

 保管期間は、宅配ボックス内への保管開始の日から○日間とする。

 2 保管期間が経過したにもかかわらず、保管品の引き取りがない場合には、管理組合(理事長若しくは理事長の指定する者)は、宅配ボックスを開扉のうえ、保管品を管理室等へ保管し、又は廃棄する等の適当な処置をとることができる。

 (破損等による損害賠償)第4条

 居住者が、故意又は過失により宅配ボックスを破損した場合は、当該居住者はその損害を賠償しなければならない。

 (規定外事項)第5条 

 この細則に定めのない事項については、規約または他の使用細則の定めるところによる。

 以上のような背景をもとに、マンションデベロッパー大手の大京が、メーカーのフルタイムシステムと協同で開発したのが「ライオンズマイボックス」で、2016年度グッドデザイン賞を受賞した。

 個数の問題──ボックスサイズを利用率の高いコンパクトサイズの荷物対応型とし、全戸分の専用ボックスを設置した。さらに、空いているスペースに共用ボックスを設けることで、約140%の設置率を実現した(図は同社ニュースリリースから引用)。

 運用の問題──全国シェア80%を占める大手宅配事業者を事前登録することで、異なる宅配事業者の荷物や複数の荷物を、1つのボックスで受け取ることを可能にした。

 ユーザビリティの問題──宅配ボックスとメールボックス(郵便受け)を一体化することで、省スペース化だけでなく、利用者の操作の一括・簡略化を実現した。

 協同開発者であるフルタイムシステムは宅配ボックスの大手で、分譲マンション市場ではシェア62パーセントを誇っている(2015年実績)。

 同社の製品は大きく「シンプル型」、「問い合わせサービス対応型」、「ネットワーク管理型」の3種類に分かれている。 

 シンプル型──不在時受け取り機能だけを備えている

 問い合わせサービス対応型──さらに、オンラインタイプの問い合わせ電話付き

 ネットワーク管理型──同社のコントロールセンターが、遠隔操作によって各種サービスを提供

 このうち、ネットワーク管理型を導入すれば、ほぼ万全に近いと思われる。

 ちなみに、東京建物と住友商事が、今年5月下旬に第1期販売を予定する「ブリリアタワー代々木公園クラッシー」には、フルタイムシステム社の最新製品が導入される。私は根掘り葉掘り取材して、かなりの優れ物であることを実感した。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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