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スペシャリストの眼

「斜め45度」の視点

2016年4月12日

第208回「シティタワー武蔵小杉」の不思議な形をした共用廊下

 住友不動産が3月開催した、「シティタワー武蔵小杉」の竣工内覧会は、いろいろな面で記憶に残った。

 【概要】

 所在地─神奈川県川崎市中原区中丸子

 交通─東急東横線「武蔵小杉」駅から徒歩4分

 総戸数─800戸

 規模─地上53階・地下3階

 売主 ─ 住友不動産

 設計・施工 ─ 前田建設工業

 竣工 ─ 2016年1月

 入居 ─ 2016年5月

 同社広報室から内覧会の案内があったのは2月16日だった。しかし間の悪いことに、傾斜した「パークスクエア三ツ沢公園」で、2月28日にスリーブの鉄筋が切断されていることが確認されて、メディア各社が一斉にそれを報じたのである。このため、内覧会が中止されるのではないかとのウワサが流れたが、同社は予定通りに開催した。

 内覧会の当日、主催者側の席に着いたのは、同社首都圏マンション事業部の営業課長と営業所長と、女性司会者の3名だけだった。このため、参加した各社の記者やフリージャーナリストの間から、「住友不動産の広報担当者は隠れたのではないか」などというササヤキが聞こえてきた。

 次いで、女性司会者の前置きで物件の説明が始まった。

 「本日はシティタワー武蔵小杉に限定して、概要を説明させていただきます。また質疑応答もシティタワー武蔵小杉だけに限らせていただきます。なおパークスクエア三ツ沢公園に関して質問がある方は、住友不動産の広報室に、直接お問い合わせください」。

 この後に、シティタワー武蔵小杉に的を絞る形で、かなり活発な質疑応答が繰り返されて一件落着かと思われた。

 けれども最後に近づいた頃、日本不動産ジャーナリスト会議の会員のX氏が、少し変わった発言をした。「本日、私は内覧会に呼んでもらえないと思っていましたが、珍しく呼ばれたので参りました・・」。

 こんな始まりだったので、参加者一同は少し緊張した。X氏が次のように続けるのではないか、と予想したのである。

 「住友不動産としては、私がパークスクエア三ツ沢公園に強い関心を持つことを、知っているはずです。それにもかかわらず、私を呼んだからには、パークスクエア三ツ沢公園について、質問せざるを得ません・・」。

 ただし、X氏の声が小さいためもあって、実際には何を話したのかよく分からなかった。ということで、説明会は何事もなかったかのように終了し、引き続き物件内覧に移行した。

 参加者の間では、40階スカイラウンジからの眺望や、高層階住戸の間取りなどに話題になった。続いて話題になったのが、意外にも共用廊下の形だった。

 以下に示した図は、住戸階(3階~53階)の平面図である。平面の中央に「吹き抜け」と「動線・サービス空間」があり、それを「共用廊下」が取り囲み、外周に16戸の住戸が並んでいる。

 タワーマンションとしてはよく見かける平面図なのだが、1つだけ不思議なのは共用廊下の形である。幅が最低では160センチ、最高では300センチもあるのに加えて、全体的にデコボコしている。

 

 なぜこんな形をしているのだろう。担当者に質問すると、2つの理由があるという。

 1番目は、「エレベーターホールのすぐ前にある住戸の内部が、ホールから見えないようにするために、入口の角度を90度ずらした」。入口のドアは平面図に矢印の「←」や「→」で示した方向に開く。これなら確かに、住戸内のプライバシーは保たれる。

 2番目は「容積率が余ったため」。しかしこれは意味がよく分からなかった。そもそも共用廊下は、容積率を算定するときには、延床面積に含まれないからである。

 容積率=延床面積÷敷地面積

 マンションでは、延床面積のうち、次の部分は容積率には含まれない。

 (1)自動車車庫等の部分 ─ その割合が延床面積全体の20%以内なら、容積率を算定するときには延床面積に含まれない。

 (2)住宅の地階部分 ─ その割合が住宅部分の延床面積全体の33%以内なら、容積率を算定するときには延床面積に含まれない。共同住宅の地階にあるトランクルーム、管理人室、設備室も同様に含まれない。

 (3)共同住宅の共用部分 ─ 共用の廊下、階段、エントランスホール、エレベーターホールなどは、容積率を算定するときには延床面積に含まれない。

 (4)防災・減災施設 ─ 備蓄倉庫、蓄電池、自家発電設備、貯水槽などは、容積率を算定するときには延床面積に含まれない。

 (5)EVシャフト ─ 容積率を算定するときには延床面積に含まれない。

 取材が終わって事務所に戻ってから、何棟かのタワーマンションの平面図をいろいろ調べてみた。しかし、「シティタワー武蔵小杉」のように、共用廊下がデコボコしている図面は見当たらなかった。極めて珍しい例なのだと思う。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャーナリスト。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年からフリージャーナリストとして活動。  東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。日本建築学会・編集委員会顧問。 ブログ『建築雑誌オールレビュー』を主宰。日経産業新聞『目利きが斬る・住宅欄』に寄稿。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『建築家という生き方』(共著、日経BP社)、 『ありえない家』(日本経済新聞社)、『建築産業再生のためのマネジメント講座』(共著、早稲田大学出版部) 、 『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)ほかがある。


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