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「斜め45度」の視点

2022年4月26日

第398回 ロシア発の「ウッドショック」が日本の「住宅建設」に悪影響?

 皆さんは「ウッドショック」という言葉を聞いたことがありますか。経済産業省の「経済解析室ひと言解説集」に掲載された2つの解説をベースにして、その意味を説明したいと思います。

◆1番目の解説【新型コロナがもたらす供給制約 ウッドショックの影響】

 「新型コロナ」がアメリカに新築住宅需要をもたらし、それにより木材の価格が高騰し、新築戸建住宅販売に影響を及ぼしたことを意味。1970年代に発生した「オイルショック」になぞらえて、「ウッドショック」と呼ばれることになりました。日本は世界有数の木材輸入国であるため、ウッドショックによって、木材の価格が高騰。「新築戸建住宅」を初め「新築マンション」の販売にも大きな影響が出ています(2021年7月19日)。

<https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikaisetsu/
hitokoto_kako/20210719hitokoto.html
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◆2番目の解説【いつまで続くウッドショック 価格の高止まりが需要に影響?】

 米国からの輸入価格が、2021年9月には前年末比2.75倍に達し、またロシア(北洋)からの輸入価格も前年末比で96%も高騰しました。このように、世界的な規模での木材の上昇が生じています(2021年10月22日)。

<https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikaisetsu/
hitokoto_kako/20211022hitokoto.html
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[■■] 『日経クロステック』のスクープ記事【ロシア発の第2次ウッドショックを警戒】

 2022年3月15日になって、日経BP社のデジタルメディア『日経クロステック』が、スクープ記事を掲載しました。そのタイトルは、『ロシア発の第2次ウッドショックか、製材止まれば毎月1万7000棟の住宅に影響』。以下に示すような内容です———。

◆「ロシア産は全て紛争木材に」

 面積ベースで世界の約2割の森林を有する森林大国ロシア。同国のウクライナ侵攻を受けて、「木材の供給減少が、日本国内における木材需給バランスに影響を与えかねない」、という危惧が木材関係者の間で広がってきた。

 国際的な資金決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの大手銀行が排除されたことや、EUがベラルーシからの木材輸入を制限したことなどによって、欧州で木材需給が逼迫する恐れが出てきたためだ。

 欧州から日本への輸出量が減れば、21年に発生した木材高騰「ウッドショック」と同じ構図になる。このように、ロシアに端を発する第2次ウッドショックの懸念が高まってきた。

 さらに、次のような文章が続きます。

◆「ロシア輸入材に不安」

 国内へのロシア輸入材にも不安が高まっている。「商社に確認したところ、直近で入ってくるロシア産材で問題は起こっていない。しかし森林認証の一時停止が時間差で影響する可能性がある」

 2022年3月上旬、国際的な森林認証である「PEFC認証」と「FSC認証」が、相次いで「ロシア産とベラルーシ産の木材への認証を一時的に停止する」と発表した。

 このような反応とは別に、ロシア側にも輸出規制の動きがある。ウクライナ侵攻による経済制裁への対抗として、ロシア政府は日本を含む非友好国に対しては一部の木材や木材製品の輸出も停止するとした。

<https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01969/031100004/?n_cid=nbpnxt_mled_km>

[■■]「日経新聞の記事を徹底的に検索」

 「ウッドショック」のような経済に関わる問題で、最も信頼できるメデイアは、やはり『日本経済新聞』かと思われます。そこで3月23日に、日経のウェブサイトを「ウッドショック」というキーワードで検索してみました。すると実に「135件」もの記事がヒットしました。

 その中から、「住宅」や「マンション」に関係がありそうな記事をピックアップしてみました。

◆ロシア発ウッドショック、製材止まれば月1.7万棟影響 (2022年3月22日)

 欧州から日本への輸出量が減れば、2021年に発生した木材高騰「ウッドショック」と同じ構図になる。

 ロシアに端を発する第2次ウッドショックの懸念が高まってきた。

◆終わらないウッドショック 今度は合板高騰のカラクリ(2022年3月18日)

 2021年に供給不足で木材価格が暴騰した「ウッドショック」以来、鋼材や生コンクリート、燃料や内装材などあらゆる資材の価格高騰が建設現場や設計者を悩ませる。

 高騰の背後にあるのは、建材ごとに異なる供給網だ。建設資材の価格動向と供給プロセスを深掘りし、素材会社や部材メーカー、工務店などが取り組む改革事例を追う。

◆北海道企業の供給網にも影 ウクライナ侵攻で調達不安 (2022年3月18日)

 2021年に起きた「ウッドショック」による木材価格急騰の余波は続いており、木材資源の輸出国でもあるロシアからの調達不安が相場を押し上げている。 付加価値の低いおがくずは流通量自体も減り、代替品で対応せざるを得ない。

◆丸紅、日本製紙と技術提携 木材の生産性向上へ (2022年3月14日)

 2021年には米国を中心に建材需要が高まり、「ウッド・ショック」が発生した。中国向け需要も旺盛で高値が続く。ただロシアのウクライナ侵攻で、針葉樹の産地であるロシアやベラルーシから欧州連合(EU)などへの輸出が止まり、木材の供給が停滞するとの観測が広がっている。

◆住宅木材、米で10カ月ぶり高値 ウクライナ侵攻で16%急騰(2022年3月9日)

 米国で住宅用木材の価格が急騰している。シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の先物価格は1週余りで一時16%上昇し、約10カ月ぶりの高値を付けた。

 ロシアのウクライナ侵攻や欧州などの経済制裁のあおりで、欧州からの木材供給が停滞するとの観測が広まったためだ。「ウッドショック」などで高値が続く米国相場で上昇圧力が強まった

 以上のように、ロシアのウクライナ侵攻に端を発する「第2次ウッドショック」は、日本、米国、欧州連合(EU)などの木材価格を急騰させています。

細野 透(ほその・とおる)

建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。

東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。


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